「日韓」のモヤモヤと、16年前の私。
最近読書にハマっている私ですが、とにかくたくさんの方に読んでほしいと思った本を紹介します。
大学生が書いた等身大の本ながら、内容はいわゆる「日韓」問題を網羅しており、まさに「入門書」となっています。7月15日の発売後、各ネット書店で在庫切れが相次ぎ、早くも増刷がかかっている話題の一冊です。既に多くの方が書評を書いていらっしゃって、その一つ一つも読みごたえがあり、読者が新しい読者をどんどん呼びこんでいるようです。
さて、私がなぜこの本を読もうと思ったかというところから書きたいと思います。それは、タイトルにもした通り、16年前私が大学生活4年間を費やして考えてきたことそのものだったからです。大学1・2年生のときは、韓国にある姉妹団体の学生と2週間共同生活をしながら、学術交流をする団体に所属して活動していました。そのあとは、東京・麻布にある在日韓人歴史資料館でボランティアをしたり、朝鮮人元BC級戦犯の方に密着取材させていただいたりと、個人的に取り組んでもいました。
※ちなみに朝鮮人元BC級戦犯問題についてご興味ある方は、まずはこの記事をご参照ください。(https://www.tokyo-np.co.jp/article/48799)映画・ドラマにもなった有名な「私は貝になりたい」は、東京裁判でBC級戦犯として死刑宣告された日本人の話ですが、実は朝鮮半島出身者も多く「日本のBC級戦犯」として死刑になったのです。
私が韓国に興味を持ったのは、中学2年生のときです。ちょうど日韓共催サッカーW杯の直後でした。日韓共同制作ドラマが地上波で放送され、韓国語の響きに惹かれて独学で勉強を始めたのです。韓国語は日本語と語順が同じで、発音が近い単語も多く、どんどんハマっていきました。
しかしそれをよく思わない人がいました。私の父です。我が家は私が小学生の頃から、夕食のときに「大東亜戦争」が話題になるような家でした。戦争で日本人がどれだけ苦しんだか、特攻隊はどれだけ立派だったか、敗戦後がいかに地獄だったか。父は終戦から10年経って生まれた人間でした。1964年の東京五輪のときに9歳なので、まさに映画「ALWAYS三丁目の夕日」の時代で、あの映画を観たときはいたく感動していました。そんな父は、日韓問題のニュースを見るたびに、ここに書くことは到底できないほどひどい韓国の悪口を家庭内で吐き出していたのです。そして私も少なからずその影響を受けていました。「韓国は好きだけど、日本に文句ばかり言ってくる韓国にはムカつく」、大学入学当時は実はそういう気持ちを持っていました。(この時点でかなりモヤモヤですね笑)
大学入学直後、日韓交流団体のオープンイベントで、韓国からの留学生と日韓問題についてディスカッションする機会があり、「留学生に一言物申してやろう」、そう思って参加しました。でも、いざ留学生の目の前に座ってみると、日本が好きで留学までしに来てくれた彼女の国を悪く言うようなことは、当然ながら言えなかったのです。そこで「仲良くならないと本音では話せない。まずはたくさんの韓国人と友達になろう」と決め、日韓交流団体に入ることにしたのでした。2005年のことです。
その団体で韓国の姉妹団体と議論した問題は多岐にわたりました。竹島問題、従軍慰安婦問題、植民地時代、日韓請求権協定、在日コリアン差別、歴史教科書問題…これらに対する両国の教育・認識には、解離があるということを痛感する日々でした。この書籍では、上記のほとんどについてしっかり取り上げられています。
そんな私からすると、昨今の日本の若い世代の「親韓」をも超える勢いの韓国文化への憧れは、本当に感慨深いものがあります。私が新大久保に週3回通っていた2006~2008年頃は、韓国好きは完全に変わり者(もしくは韓流好きのおばさんの仲間?笑)だったもので…。この本に書かれているような日韓問題に興味を持ってほしいと思って活動もしていましたが、まったく振り向かれなかった覚えがあります。この本の見出し、「推しが反日かもしれない」はなかなかのインパクトでした(笑)。これは、Kポップファンとしては死活問題ですから、日韓問題に興味を持つ十分強い動機になりますね。
16年前、私は未来の日韓の学生に対して、「歴史問題は関係なく、『近くて近い国』として日韓仲良くしてほしい」と本気で願っていました。なのに、いざKポップがマスコンテンツとなった今、「日本人が日韓問題をきちんと学ばずに、ただ「好き」という気持ちだけで韓国に行くのはリスキーなのではないか?」という危機感を感じたことも事実です。
8月になると日本では「終戦」の特集番組やニュースが増えますが、この本を読んだあとにメディアに触れると、被害の歴史だけを振り返って、「戦争はやめよう」と訴え続けていることに少し違和感を感じるようにもなると思います。こうして、「視点が増える」ということ自体が、とても価値のあることではないでしょうか。私自身、大学時代に日韓関係に真剣に向き合ったことで、そのほかの多様性課題(ジェンダー、障がい、他民族etc.)にも興味を持ち、ダイバーシティ・インクルージョンに関わる仕事にも取り組むようになりました。大げさではなく、いまの自分のアイデンティティを形成している要素のうちの大きな一つに、「日韓と私」ということは変わらずあり、今後もライフワークとして考えていきたいと思っています。
ちなみにオープンイベントでのディスカッションで知り合った留学生の彼女とは、いまだに仲良くしていて、新型コロナでステイホームになってから1年以上毎週水曜に2時間ZOOMで話しています(笑)。こんなに素晴らしい本が出て、多くの人が興味を持って読み、日韓関係を考えてくれる日が来るよと、16年前の私に教えてあげたい。そう思って胸が熱くなったのでした。