見出し画像

そうじ記(改)

     そうじ記


私はとある商業施設の清掃員です。
開店前のお客様用トイレの掃除、開店後にはスタッフさん用のトイレと休憩室を担当しています。
今日もお客様がゆっくりお買い物をしてくださいます様に、スタッフさん達がホッとひと息つけます様にと思いながら汚れをリセットするのでした。

そんなある日のこと、いつもの様に担当しているお客様用トイレへ。すると多目的トイレから臭いがしました。
向かって右側に開ける多目的トイレの引き戸を開けました。右手にはオストメイト用のお流しがありますが、その中ではなく床にほどよい便の固まりが落ちていました。悪いことに引き戸のレールにもかかっており、私が開けたので便が完全に引きずってしまいました。
これは開店に間に合わないと判断して応援を頼みました。
「白足袋さん、おそらくオストメイトご利用の方が誤ってこぼしたのでしょう。」
応援に来てくれた上司Mが言いました。私は通常清掃を行ないながら考えました。
それにしては形もしっかりとしているし…私にはどうしても悪戯で床にやらかしたとしか思えないのでした。

それから2ヶ月すぎた頃、また同じ階の多目的トイレが詰まっていました。便がこんもりと流れずに残って居ました。
プランジャーで吸引を試みますと、手ごたえがあったので引き上げました。プランジャーには20枚ほど縦折りにした、サラのA4のコピー用紙が吸いついてシャーッと出てきました。
一体何の理由があってこんな事をするのだろうか…腹ただしい気分になりましたが開店まで時間もありませんので、気を取りなおして処分しました。

木曜日…また木曜日か。同じひとの仕業かな?一体どんなひとがこんな事をするのだろうか。
当時はコロナ禍、緊急事態宣言の中商業施設は19時閉店で…遅番のスタッフが巡回に来るのが18時半頃だから、そこから翌日私が現場に入るまでの間に行なわれている訳で…それだったら入口の監視カメラに犯人が写っているかもしれない。
お客様がこの隙に⁈…うーん、やっぱり施設内の関係者じゃないと無理な気がするなぁ。コロナ禍の八つ当たりか?…だとしても凄い迷惑な事だ。
などと考えながら帰宅するのでした。

木曜日のいつもの多目的トイレに限った事ではありません。違う階のお客様用トイレには日曜日、必ず壁面に鼻汁をなすりつけた様な跡が残っています。いつも同じ個室です。こちらは業務用洗剤を吹き付けてしばらく置けばすぐ拭きとれる程度ですが…詰まりの処置はとても手間がかかるので困ります。
月日が過ぎて緊急事態宣言は解除され商業施設は平常通りの営業時間となりました。そこから暫くは大きな問題もなく作業を行なう日々が続きました。

しかし、ある頃から再び例の多目的トイレに異変が起きました。やっぱり木曜日の朝です。
便器のボウルの中に尋常ではない量の便があり、程よく固まっていて流れないのでした。清掃員の経験上、いや人生経験上一度の排便量とは考えづらい量でした。
他の場所でバケツ等に3回分くらいして、わざわざここへ持ち込んだのかしら⁉︎
 …と考え込む程の量でした。
この場合大きすぎて流れないという事で、詰まっている訳ではないのでやむなくサニタリー用ポリ袋を手袋代わりにはめて固まりを手で分割してから流しました。通常ディスポ手袋をしていますがそれだけで固まりを掴むのは個人的に抵抗があったので、手袋の上にポリ袋も使ったのでした。

翌週の木曜日となり、またそんな状態だと時間もかかるからと警戒してその日は通常より15分早く作業を開始しました。
そして15分早くあの階へ。あの多目的トイレは開店前には珍しく使用中でした。
「失礼致しま〜す、お掃除はいりま〜す。」
と、かけ声かけて道具入れのある女性トイレへ入り用意をします。
 私は用意をしてるフリをしてそっと女性トイレの入口に立ちました。
多目的トイレから水洗の音がして戸が開き、私の直属の上司Mが走り去りました。
早速多目的トイレをチェックするとトイレが詰まっていました。便などの汚物はありませんでしたが、床に20センチ程度の…植物の茎部分2本をゴムで束ねたものが落ちていました。
コレ流してたらそりゃあ詰まるわ‼︎と呆れながらプランジャーで詰まりをなおしました。
…そうか、そりゃ清掃員の出入りなら警備員さんも怪しまないか。


私は1ヶ月後、仕事を辞めました。

いいなと思ったら応援しよう!