『君は放課後インソムニア』にみる、ひとりじゃないこと
不眠症といって思い出されるのは『マシニスト』か『インソムニア』か、『フローズン・タイム』と『銀魂』の「眠れないアル」が私的に好きだ。
眠れない夜を過ごすのは苦しい、それでも”インソムニア”という言葉の響きがいい。
タイトルだけで、森七菜ちゃん主演というだけで、もう惹かれてしまう。
原作はオジロマコト氏の同名コミックス。
不眠症に悩む高校生の中見丸太(奥平大兼)はおなじく不眠症の曲伊咲(森七菜)と出会い、唯一の居場所である天文台を守るため、友人たちと力を合わせ天文部の復活に奔走するさまを瑞々しい筆致で綴るー
石川県七尾市。
学校の最上階にある天文台で束の間の微睡みを共有するようになった、伊咲と丸太のひと夏の青春と恋が瑞々しく描かれる。
天文部、眠れない夜、星空、七尾市の情緒ある町並み。
人好きする要素が集まっている。
はじめは居場所を守るための部活動だったのが、いつしか星空とカメラに魅了され、共通の悩みと希望を見出して、仄かに惹かれ合っていく純真な若い二人の姿に優しいものが流れた。
”インソムニアの病的”を求めて、ほんとの難病ものだったことは、偏愛する傾向が全く違ってしまうのだけれど。
伊咲は生まれつき心臓の病をかかえている。
両親に必死の許可を得て、能登の実家の空き家へコンテスト写真撮影のための遠征が叶った夏休み。
引率者は伊咲のお姉ちゃんだ。
ところが、程よいところで姉は彼氏の元へ逃亡。
両親にすぐバレて連れ戻されそうになる二人もまた、バスに飛び乗り目的地の真脇遺跡まで束の間の逃避行に出るのだった。
ちなみに、この真脇遺跡が素敵で能登地震の被害はなかったそうでよかった。
伊咲には命の危険がある。だから両親は必死なのだ。
だけどいま一緒にいたいとおもう人ができて、その人も想ってくれている。
一緒に観たい星空がある。
いつ心臓が止まるか不安で眠れなかった苦しい夜を丸太が越えさせてくれた。
絶望なんてしてない森七菜ちゃんの天然ものの元気と陽気が本編をおおらかに包み込む。
きっと丸太と共に生きていける未来があると信じさせてくれる。
一方、丸太にもまた眠れない理由があった。
幼い頃出奔した母の記憶に苛まれ、寡黙な父との二人暮らしに本音すら言えないまま、色んな感情を飲み込んで生きてきた苦労者が丸太なのだ。
目の下ぐるぐる真っ黒な病的なのを求めていたけれど、ちゃんとマジメな本編の恋模様は高純度でとてもいい、小粒の良品だった。
(監督 池田千尋/113min)