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『サウンド・オブ・フリーダム』にみる、荒涼たるアンダーグラウンド

 これほど一筋縄でいかない作品も珍しい。 国際的な人身売買組織から少年少女を救い出した実在の人物ティム・バラードを、ジム・カヴィーゼルが渾身で演じる。 アメリカだけでも年間200万人の子どもたちが誘拐されているという驚愕。連れ去られ、小児性愛者(ペドフィリア)の欲望を満たす道具となる子どもたちは、ドラッグより長く金になる資金源なのだ。 闇社会に挑んできた連邦捜査官ティムの仕事は性加害者を検挙すること、被害者の子どもたちを救えはしない。ある時この事実に耐えきれなくなったテ

    • 『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』にみる、良き恩師のいる風景

      1970年、ボストン近郊。 全寮制の男子高バートン校を舞台に、料理長メアリー(ダヴァイン・ジョイ・ランドルフ)とクリスマス休暇を学校で留守番することになった皮肉屋の嫌われ者中年教師ハナム(ポール・ジアマッティ)が、家庭の事情で帰ることができないアンガス(ドミニク・セッサ)と心を通わせていくさまを、心温まるタッチでノスタルジックに綴る。 監督はアレクサンダー・ペイン氏。 寡作のひとといっていいかもしれない。 過去に短編をひとつ観たくらいで、『アバウト・シュミット』『サイドウェ

      • 『ベイビーわるきゅーれ ナイスデイズ』にみる、フィルム・のわーる・ガーリッシュ

         シリーズ第3弾。完結(たぶん)。  宮崎出張にやって来たちさと(髙石あかり)とまひろ(伊澤彩織)は到着早々仕事をこなし、気分はすっかり観光モード。 そんな中、追加ミションの命令を受け、ターゲットのいる宮崎県庁へといやいや向かった2人だが、同じターゲットを狙う謎の男と鉢合わせしてしまう。 男の正体は、たった一人で150人殺しの達成を目指している史上最強の殺し屋・冬村かえで(池松壮亮)だった。 一匹狼の怪物を前に絶体絶命のピンチに陥るちさととまひろだったが― いつもの二人がい

        • 『Pearl パール』にみる、『X エックス』シリーズ躍進と悪徳の栄え

           ミア・ゴズ主演のスラッシャー・ホラー3部作として始まった「X エックス」シリーズ第2弾。 前作の恐ろしい老婆殺人鬼パールの誕生に迫る、若かりし頃の物語を描く。  1918年、テキサスの貧しい農場に暮らすパールは純真無垢な娘。 映画の中の華やかな踊り子に憧れる一方で、現実は厳格な母親に支配され、父親の介護と家畜の世話に追われ、戦場へ行って還らない夫を待ちわびる鬱屈した日々だった。 ある日、町で若い映写技師と出会い、これを機に外の世界への憧れがますます募ってく。 そんな折、旅

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        『サウンド・オブ・フリーダム』にみる、荒涼たるアンダーグラウンド

        • 『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』にみる、良き恩師のいる風景

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          生存率0%絶望にみる、『エイリアン:ロムルス』

          エイリアン最新作を観ると、前回の『プロメテウス』でもそう、過去シリーズを振り返ってみたくなる。 1.2と立て続けに鑑賞したあと、手元には3.4が控えている、一気観させる良さがある。 ウルグアイ出身でホラー映画の名手フェデ・アルバレス監督による最新作は、第1作目と2作目の間に起こったこととして新たに構築された物語。 オマージュたっぷり、CGに毒されない映像表現で過去作の粋を十分に活かしていた。 主人公レイン(ケイリー・スピーニー)が強靭な女の子であるだけで、シガニー・ウィーヴァ

          生存率0%絶望にみる、『エイリアン:ロムルス』

          『エイリアン』シリーズ考

           最新作の鑑賞で『エイリアン』が懐かしくなってシリーズの一気見をする。 SFホラーの金字塔はいまなお変わらずにハラハラドキドキをくれた。 記念すべき第一作目は『プロメテウス』のリドリー・スコット監督、1979年製作。 最後まで生き残ったリプリー(シガーニー・ウィーヴァー)がシリーズの魅力的な主人公になっていく。 新作までの間隔がそれぞれ5~7年。監督がすべて違う。 こうして見較べるとそれぞれ確固たる個性があって楽しい。 たとえば最も異色なのはデヴィッド・フィンチャー監督の

          『エイリアン』シリーズ考

          『箱男』にみる、匿名性に守られた窃視者

           石井岳龍監督による芥川作家・安部公房の同名小説初の映像化。 一度、海外で始動していた企画が頓挫して数十年、本編に至る。 当時のキャスティングそのままに贅沢な布陣で異常な物語が動き出す。 モノクロにはじまる導入はワクワクした。 これはひょっとするかもしれないと思った。 ”箱男”(永瀬正敏)によるモノローグ。匂いは昭和。 そう昭和感が半端ないのだ。 頭から段ボールをかぶり、完全な匿名性を手にして世界を一方的に覗き見る“箱男”と、その謎の生態に魅せられ自らも箱男になる贋医師(

          『箱男』にみる、匿名性に守られた窃視者

          唯識の世界線、『暁の寺』

           『豊饒の海』第三巻。これまで狂言回しとして輪廻の目撃者であった本多繁邦が物語の中心となって、仏教の生まれたインドと敬虔なタイ国を訪れる。 ジン・ジャンを松枝清顕の生まれ変わりと俄かに信じて、幼少期の出会いから、美しく成長し渡日してくる彼女に翻弄されていく本多の、壮年期の変り様に驚かされてしまう。 作家自らを重ねたわりに、別荘普請に耽溺する魅力がない男で、ここへ来てワンチャンないかとジン・ジャンに姑息な手を回す本多は中年クライシス只中というかんじ。 合間に滔々とさ迷う唯識

          唯識の世界線、『暁の寺』

          『新米記者トロッ子 私がやらねば誰がやる!』 にみる、真面目の美徳

          『殺さない彼と死なない彼女』『恋は光』の文芸チックな作風がたのしい小林啓一監督最新作。 憧れの作家”緑町このは”が在籍する名門私立高校に入学するも、エリート文芸部への入部は叶わなかった結衣。 しかし、部長の西園寺茉莉(久間田琳加)から入部を許可する代わりに”緑町このは”の正体を暴く任務を帯び、学園非公認の新聞部に入部する。 そこで結衣は新米記者“トロッ子”として活動し、型破りな部長かさね(髙石あかり)の厳しい指導の下、スクープを狙って学園の闇に切り込んでいくのだが― はま

          『新米記者トロッ子 私がやらねば誰がやる!』 にみる、真面目の美徳

          『ルックバック』にみる、初期衝動

           創作を諦めない二人の姿に感情が動く。 マンガにしろ、小説にしろ、映画にしろ、何かに夢中になったことのある人に無条件に届いていく作品だとおもう。 いま現在、勇気づけられるゲージュツ家の卵たちがきっといっぱいいてほしい。 学年新聞で4コマ漫画を連載している小学4年生の藤野と、不登校の同級生・京本。 ふとした出会いによって、二人の人生が動き出す夢のような共同漫画家への道と、そうはならなかったパラレルワールドのほうへふと迷い込む異世界。一筋縄ではいかせない、確かな強さ。 わずか1

          『ルックバック』にみる、初期衝動

          ありがとう環世界、ありがとう國分先生。『暇と退屈の倫理学』

          ずいぶん前のEテレ特番『哲子の部屋』が好きだった。 そこで初めて哲学者・國分功一郎氏を知った。 あれから10年、同番組で國分さんが教えてくれたユクスキュルの”環世界”という概念をなんど思い出してきたことだろう。 ”なぜ人は学ぶのかー” 楽しめることを増やすため。好きなことを学び続けたいとおもえた。 やっと手に取る本書には知りたいことがいっぱい書かれていた。 ずっと教えてほしかった、私に付きまとう思考の理由。 それは、レジスタンスや隠れキリシタンや三島由紀夫や学園闘

          ありがとう環世界、ありがとう國分先生。『暇と退屈の倫理学』

          『君は放課後インソムニア』にみる、ひとりじゃないこと

           不眠症といって思い出されるのは『マシニスト』か『インソムニア』か、『フローズン・タイム』と『銀魂』の「眠れないアル」が私的に好きだ。 眠れない夜を過ごすのは苦しい、それでも”インソムニア”という言葉の響きがいい。 タイトルだけで、森七菜ちゃん主演というだけで、もう惹かれてしまう。 原作はオジロマコト氏の同名コミックス。 不眠症に悩む高校生の中見丸太(奥平大兼)はおなじく不眠症の曲伊咲(森七菜)と出会い、唯一の居場所である天文台を守るため、友人たちと力を合わせ天文部の復活に奔

          『君は放課後インソムニア』にみる、ひとりじゃないこと

          『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』にみる、加速進化のある世界

           鬼才デヴィッド・クローネンバーグ × ヴィゴ・モーテンセン氏が4度目のタッグを組んだSFホラー。  急速な進化によって人類から痛みの感覚が消えた近未来を舞台に、自らの体内から新たな臓器を取り出すパフォーマンスを行うテンサ―(モーテンセン)とパートナーのカプリース(レア・セドゥ)を主人公に贈る異色作。 生体と見紛うグロテスクな寝台に横たわり、臓器の芽を育てるテンサー&見守るカプリース。 痛みの消えた世界で男女の関係は近未来的となり、まぐわいもまた過激になり、肉体を傷つけあ

          『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』にみる、加速進化のある世界

          『ライド・オン』にみる、香港映画の終焉再び

          いつからだろう、ジャッキー・チェン氏の作品を追わなくなって久しい。 反日発言がどうとか言われるずっと以前、ハリウッド映画に出始めた頃だったろう。 中学生の当時、ひとり劇場で新作を観るほどにはカンフー映画が好きだった。家 族旅行で香港へ行けば誰よりも興奮した。 それさえ今は昔、古希を迎える大スターによる懐かしいアクションと聞いて、本当に久しぶりに劇場へ足を運ぶ。 先日の『無名』もそう、偏愛していたむかしの香港映画はもう作られない。 ジャッキー氏といえども、過去の栄光となったア

          『ライド・オン』にみる、香港映画の終焉再び

          『関心領域』にみる、良心の呵責

          アウシュヴィッツ収容所と壁ひとつ隔てた隣に暮らす一組の家族がいた。 所長を任された親衛隊中佐ルドルフ・ヘス(クリスティアン・フリーデル)一家だ。 穏やかで幸せな日常を描きながら、聞こえくる銃声や怒声が収容所のおぞましい実態を浮かび上がらせていく―。 大戦中とは俄かに信じられない豪邸に、使用人を雇い、愛する子どもたちと何不自由なく暮らすヘス家族。 優雅な日常を描くなかに幾度となく鳴り響くのは、お隣が奏でる恐ろしい騒音。 それでもあえて聴くまいとすれば不穏な音はかき消えてつつが

          『関心領域』にみる、良心の呵責

          まるで耽美な映画、『聖なる春』

          古い土蔵のなかで、世紀末ウィーンの画家クリムトの贋絵を描いて暮らす「私」を時折訪ねてくる不思議な女キキ。 そのキキが描く肖像画には秘密があり、やがてひとつの「事件」が...。 美しく物悲しい、贋作画家の恋と死。 1996年刊行。タイトルは分離派の機関誌『ヴェル・サクルム(ラテン語で「聖なる春」)』による。 久世光彦さんの美文についていつか書いたそのままに、耽美で知的にエロく、映画のように情景が浮かび上がってくる。この方の本はいつでもそう、だから愛おしく狂おしい。 仲間

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