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豊饒の海シリーズ『春の雪』『奔馬』の豊饒

『春の雪』 
ことしの読書初めに選んだ”豊饒の海シリーズ”、前半の2冊を読み終えた。三島由紀夫というひとの凄みに感じ入る、まさに豊饒ですばらしい。 維新の功臣を祖父にもつ侯爵家の松枝清顕と、伯爵家の美貌の令嬢綾倉聡子のついに結ばれることのない恋。矜り高い青年が、<禁じられた恋>に生命を賭して求めたものは何であったか?―大正初期の貴族社会を舞台に、破滅へと運命づけられた悲劇的な愛を優雅絢爛たる筆に描く。(『春の雪』新潮文庫カバーより)
高等遊民=永遠のモラトリアム小説が、まるで結核ものの現代に繋がる精神性というのによく似た毛疎く、だけれど尊く切実な足掻きで胸に迫ってくる。高貴な世界での恋物語はそれゆえに一筋にはゆかず、自尊心に惑い、紆余曲折する間に、二度と取り返しのつかないところまできてしまう。儚く卑怯な関係を断つことすらできない清顕に、聡子は剃髪で拒む、その愛ゆえの頑とした凛々しい別れが胸に痛い。大正期の世情や仏教思想にいたるあれこれを大いに内包しながら、これほどストレートに<禁じられた恋>を描いていることにおどろかされる。そうして、夭折する清顕を看取り、シリーズを誠実に傍観しつづけることになる親友・本多繁邦の登場と、次作『奔馬』でその息子が主人公となる松枝家の書生・飯沼の登場に期待が膨らんでいく。『奔馬』
 親友・松枝清顕を看取った本多繁邦の前に、清顕と同じく脇腹に三つの黒子をもつ青年・飯沼勲が現れる。腐敗した政財界と疲弊した社会を変えんと志す勲は、右翼塾を主宰する父や塾生、恋人や財界重鎮らに翻弄され孤独を深めていく。本多の見守るなか、純粋さを求める青年は、たった一人の叛乱へひた走るのだった―。(『奔馬』新潮文庫カバーより)
打って変る趣の違い、内容の凄みにやはり感じ入る。ここでも若者の恋を欠かずに描く、その姿勢のふつうさがあって尊い。切腹へと向かう奔馬の疾走感に、三島由紀夫最期の気持ちを重ね合わせる。清顕と勲、彼らの誠実は作家自身の誠実に思えてならない。だからこそ私は三島由紀夫が好きなのだ。作中作「神風連史話」の妙。その士族たちの御霊に導かれるまま、仲間と企てた暗殺計画は密告によって儚く散ってしまう。勾留されて過ごす最後の一年と、密告者の真相、すべてを知ったうえで一人斬り込んでいった勲のどん詰まりの鮮烈に思想とかなしで震えた。清顕の死から18年。勲が清顕の生まれ変わりであると確信する本多は、そうして運命的に繋がった縁に導かれるように、大阪での職務を投げうって勲の弁護に身を投じていくのだった。夭折した二人の若者を繋ぐ輪廻転生の宿命がこれからどんな広がりをみせていくのだろう。第三部で舞台はインドとバンコクへ飛ぶ。

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