整形した殺人鬼が、『夜歩く』
初めて読むディクスン・カー(1906~1977)で、記念すべき処女作。
『It Walks by Night』1930年刊行。
翻訳によって随分印象の違うらしい本作。最新のものでも読みにくさを指摘されたりしているようだ。
こちらは半世紀前の創元推理文庫版、井上一夫訳。
評価はしらないが、読みにくいことはなくたまにクスッと笑う。
仄かな怪奇趣味と、おもわせぶりの人狼と、密室殺人トリックの甘さ、それら含めて時を経たいまも楽しい。ミステリに疎いからこそ緩さがよい。
名探偵アンリ・バンコランの職業”予審判事”とはなんぞや、まずググるところから始まる。
彼の片腕で語り部の”私”=ジェフリー・マールのアメリカ青年らしい剽軽さが猟奇殺人ものに息抜く暇をくれた。
イギリス人シャロン・グレイ嬢とのちょっとしたロマンスなど、パリを舞台にしているがゆえ、英語圏の登場人物たちのかろめなジャブが心地よい。
カー自身がアメリカ人なのだ。
整形した殺人鬼ローランが野に放たれ、新婚初夜の元妻を追い詰める。だれが顔を変えたローランなのか推理しながら、密室の謎を解く本格派。
いまいち名探偵バンコランの印象残らず、どうしてもジェレミー・ブレッド氏の所作で妄想しながら読み終えた。
さらには横溝正史(1902~1981)氏に、金田一耕助シリーズで『夜歩く』という同名作があることを知らず、ちょっと気になっている。