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ともに歩く

何かを書きたいと思って、朝から今までのことを思い出そうとするけれど、特別なことは何もなくて、あったとしても、思い出すことができなくて、ただこうやって、パソコンの前に座って、今の状況をタイピングするだけで。

今日だって何もなかったわけじゃないから。目を閉じて、キーボードの上に指を置いて、考える。ひとまず朝だ。仕事に向かうために、ドアを開けて玄関から外に出ると、家の前の道を自転車がゆっくりと走っていて、乗っていたのはオレンジのジャンパーを着た人、おじさんだったと思うけど、そのおじさんと目が合ったんだ。嗚呼、そんなことを思い出してどうするんだ。そしてタイピングしてどうするんだ。

駅に向かう線路沿いの道を歩いていると、とぼとぼ歩く老犬(ダックスフンドだと思う。以下、老ダックス)を連れたおばさんが歩いていて。おばさんは思いのほか派手な格好で、黄色地に青い水玉模様のジャンパーにぼくの目は釘付けになった。おばさんと目が合ったので、軽く会釈をして、とぼとぼ歩く老ダックスの方を見ると、老ダックスと微妙な距離を保ったまま並んで歩いている白黒ネコが「ニャー」と鳴いた。尻尾をピンと立てた白黒ネコは、とぼとぼ歩く老ダックスの前を行ったり来たりしながら、やさしく「ニャー」と話しかけている。水玉おばさんが中腰になって白黒ネコの方に寄って行くと、水玉おばさんに興味がない白黒ネコは方向を変えて駅前カフェの庭のなかに走って行った。とぼとぼ歩く老ダックスは、白黒ネコがいなくなったことに気づいているのかいないのか、自らのペースでおばさんを連れてとぼとぼ歩く。

今日のことを書き始めたけれど、文章のなかのぼくは、まだ仕事に向かう電車に乗ることもできず。書いても書いても今日という日は終わらない。

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