入り口
自転車にまたがり、夜の闇の中ただ一点目指して駆け抜ける。
川に沿って続くコンクリートの波を、越え、走る、さきにぽつりと見える。地下への入り口。あの先にあるのはきっと改札で、でもそんなものはここからでは見えない。できる限り足を踏み、ペダルを回し、精一杯の速さを求める。両足を離し、でも手はしっかりハンドルを握ったまま、身体を前に倒し、前のめりになって。突如現れた坂道を、あらんことかと駈け下る。大丈夫だ、眼の前には誰もいない。自転車はガタゴトを音を立てる。間違ってブレーキなんてかけないように、細い細い持ち手を握って、ただ全身で風を切るのを感じる。角を曲がった誰かとも出会い頭にぶつかりませんよう。願い、そっと眼を閉じる。これまでのことを振り返る。この階段は実はトンネルで、あちらの世界へ続いたら、なんても考える。そうだったら生まれ変わって次はあんなこと言って喧嘩しない、親の言うことに頷かない、自力で生きられる術を身につける、そしたら幸せだ、なんて空想する。最後、高い女の叫びを聞く。