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打ち直した1本に世界一の夢を追え!【ロサンゼルス・ドジャース大谷翔平】

「野球界は、みんなキリのいい数字が好きだから」

誰のセリフだったか全く記憶にないのだけれど、確かに今シーズンの大谷翔平観戦は、いつもの、いやいつも以上のすご過ぎる活躍っぷりに加え、“キリのいい数字”を追いかけ回した162ゲームだった。

待って待って待ち続け、ようやく9試合・41打席目に飛び出た第「1」号ホームランにはじまり、日米通算「1000」本安打を通過。その後も、メジャー通算「100」盗塁に「200」号ホームラン、「800」安打と続き、今シーズンの「30」号を放った翌日には、日米通算「250」号弾がスタンドイン。

「30」盗塁「30」本塁打をさらっと達成したと思ったら、サヨナラ満塁弾で決着という劇的なストーリーで「40」盗塁「40」本塁打に到達。

さらに、誰もが「いける? やっぱ厳しい?」と見守っていた「50」盗塁「50」本塁打は、1試合6打席6安打3本塁打10打点という、キャリアハイ尽くしでの決着。2盗塁も決め、あまりにも打ち過ぎ、飛ばし過ぎ、走り過ぎな成績にチームメイトやファンたちがドン引く一方で、本人がいちばん驚いていたことに笑ってしまった。

打者に専念したら、どれくらいの数字を残すんだろう――。
シーズン前、いろいろな専門家に予想された遥か上をいく成績で、締めくくったシーズンだった。

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そんな中、忘れられないホームランがある。9月8日(現地時間)のガーディアンズ戦、本拠地ドジャースタジアムで放った46号だ。

54本すべてにストーリーがあり、思い出もあるけれど、「1本だけ選べ」と言われたら、このホームランを取り上げたい。

松井秀喜氏が記録した、日本人選手のメジャー通算最多本塁打記録を176本に塗り替えた5号や、始球式を完璧に務めた愛犬デコピンに、デレデレパパの顔を見せた42号、「back-to-back-to-back!」と実況が叫んだ、MVPトリオ揃い踏み3連発の44号でもなければ、9回裏ベッツのサヨナラ逆転弾につないだ起死回生の同点53号でもない。

華々しいストーリーにまみれたアーチの中では、どちらかと言えば地味な一本。もしかすると、どんなシーンの一発だったか記憶にない人も多いかもしれない。

46号は、2日かけて打ち直しをした一本なのだ。

時を戻して9月7日(現地時間)、ドジャースタジアムでの対ガーディアンズ戦、初回。第1打席の初球だった。甘く入ったストレートを振り抜き、右翼ポール際へ大飛球を飛ばした。
バッターボックスで体をフェアゾーンへ傾けながら、ボールの行方を目で追いかけていた大谷だったが、ボールは惜しくもファールゾーンへ飛び込んでいった。
結局、この打席はショートゴロに打ち取られ、大飛球は幻の一本となった。

でもでもでも、その幻を、幻で終わらせないのが大谷だ。

翌8日(現地時間)の第3打席。2球目のチェンジアップを捉えた一発は、前日のファールとほぼ同じ弾道を描きながら、またまた右翼ポール際へ。打席でバットを手にしたままボールが飛んだ先を見つめていたが、今度こそ手ごたえがあったのだろう。ゆっくりとバッターボックスから走り出し、ダイヤモンドを一周した。
審判たちの「チャレンジ」が行われホームランが確定すると、ダグアウトのベンチに座っていた大谷は、笑顔とともに両手でガッツポーズをつくってみせた。

この日の一発は、右翼ポールの遥か上空を通過する、飛距離137メートルという特大アーチ。試合後、大谷は「昨日はファールになったけど、今日はフェアゾーンに入れられてよかった」とインタビューに答えている。そう、この一本はホームランに「なった」のではなく、ホームランに「した」一本だったのだ。

……ホームランって、日をまたいで打ち直せるものなんだ……。

「ホームランは狙って打てるものじゃない」と大谷はいうけれど、いや、この一本は確かに打ち直したよね。「バッティングはパワー」とも言ってるけれど、いやいや、やっぱりこの一本は技あり弾だよね。

陰での努力は決して見せないけれど、チームメイトたちは口を揃えて称賛しているもの。日々のルーティンを、練習量を、「上手になりたい」「世界一の野球選手になりたい」という、とどまることを知らない貪欲な向上心を。

とらえきれない球は、打てるまで打ち込む。打てない投球の軌道は、とらえるまで打席に立ち続ける。バットの軌道や振り抜く速度、ボールをつかまえる位置の微調整。修正を重ね、バットコントロール力に日々、磨きをかけているに違いない。

その結果が、もう一度同じ軌道を描き、同じ右翼スタンドへ運び直した46号だった。メジャー最高打者の一人と称される大谷翔平が、大谷翔平である理由が凝縮された一本。改めて、心をつかまれた一本だった。

……と、熱く語らざるを得ないほどの活躍で、楽しませてくれた2024シーズンだったが、残念ながら最後は「59」盗塁「54」本塁打という、なんとも口惜しく歯がゆさの残る数字で終わってしまった。

いや、ちょっと待って。

「59」も「54」も、めちゃくちゃ余韻を残す数字じゃないの?

「まだ続きがあるんだ」といわんばかりの59盗塁54本塁打は、2025ひいては2026シーズンへ、夢が続いてゆく期待を大きく大きく抱かせてくれる数字ではないか。そんな次の楽しみを残してシーズンを終わらせた大谷は、やっぱりただモノじゃない。

ちなみに、46号を放ったあの日。打ち直し弾が直撃したのは、1955年にロサンゼルス・ドジャースがワールドシリーズを制覇した記念の看板だった。 

7年前、海を渡る手に携えた、世界一への夢の扉が開くまで、あと7勝(現地時間10月15日現在)。2024シーズン最高のストーリーを「1本」で描き切れ。もう、余韻はいらないから。(終)

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