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【COLUMN】イタリアにおける男性運動(伊藤公雄)

伊藤公雄(WRCJ共同代表)

共通点が多い日本とイタリア

イタリアと付き合って40年以上になる。1981年から82年の1年2ケ月、イタリア政府給費留学生としてミラノ大学に籍を置いた時から数えてちょうど40年たっている。

日本でヨーロッパというとフランス、イギリス、ドイツあたりを思い浮かべる人も多いだろう。ただ僕にとっては、イタリアという社会と付き合ったおかげで、“定番”のヨーロッパイメージとは異なる観点からいろいろなことを考えさせられてきた。

そもそも男性性の研究を始めた契機も、イタリア研究からだった。イタリア・ファシズムの文化の研究の中で、全体主義の文化の中に潜む「男性性の過剰な強調(ムッソリーニは、ファシズムを「男らしさの復権の革命」と呼んだ)」に気が付いたのがきっかけだった。

近代国民国家成立(国民がその国の国民として国家に所属しているという意識の形成)の時期も1870年前後と日本とほぼ一緒、戦前に日独伊三国同盟を結んだし、戦後は軍事基地も含めてアメリカ合衆国の影響の下に置かれた。

1970年代に「ロッキード事件」もほぼ同時期に経験している。ジェンダー問題でも、1970年代以後の国際的な女性の社会参画の動きに出遅れた点もよく似ている。

最近、よく報道される世界経済フォーラムのグローバル・ジェンダー・ギャプ指数(GGGI)を見ても、そのことはよくわかる。GGGIが最初に発表されたのは2006年。当時のイタリアは世界115ヶ国中で77位、日本は80位とほぼ同じくらいだった。

2020年は76位だったイタリア(日本は121位)も、2022年には63位(146ヶ国中)とちょっと改善した。多くが20位以内のOECD加盟諸国の中ではまだ低いとはいえ、116位(100位台の高等教育へ進学率が出ていないので、多分もっと下の120位台)の日本とはそれなりに差ができてはいる。

ジェンダー平等を目指す男性運動の始まり「ウオーミニ・イン・カンミーノ」

イタリアでジェンダー平等を目指す男性の運動が、トリノ近郊のピネローロという小さな町で「ウオーミニ・イン・カンミーノ(歩みの途中の男たち)」という名前で始まったのは1993年。これも日本のメンズリブ運動(1991年発足)とほぼ同じ頃だった。

イタリアで男性の運動が全国化し始めるのは21世紀に入ってからだという。なかでも2006年に「アルテミシア(よもぎ)」という女性グループがホワイトリボンキャンペーンを開始し、男性たちを巻き込む動きを始めたことは大きかったようだ(ホワイトリボンキャンペーン・ジャパンの源流であるホワイトリボン関西とちょっと似た形成のされ方かもしれない)。

翌年の2007年には、全国に自然発生的に生まれ始めた男性グループが「マスキーレ・プルラーレ(複数の男性性)」協会という全国組織にまとめられた。

前年の2006年に「女性に対する暴力に我々は無関心ではいられない。男性として声を上げよう」という署名運動が呼びかけられ、約1000人の多様な男性たちがこれに答えたことが、この全国組織結成の契機になったようだ。

近年の脱暴力の広がり

この協会は最近、男性問題についての5本ほどの短編映像を制作している。YouTubeを利用し、映像を使った学校への働きかけや成人教育での活用を始めている。学校への働きかけとしては、男性と女性がペアを組んで(男性加害者センターの男性と暴力相談センターの女性)、学校への出前講義をしている地域などもある(フェッラーラ市など)。

2009年には、フィレンツェとトリノに暴力などで悩む男性のための施設も誕生し、その後も各地で同様の施設が設置されつつある。昨年秋、オンラインでインタビューをしたフェッラーラ市の事例では、人口13万人のこの街で、2020年の一年で72人の男性が訪問してきたという。

脱暴力のプログラムや予防教育もここでは施されている(実は2019年春、直接このセンターを訪問して、男性の語り合いの場にも参加させていただいた。つい最近、刑務所を出てきたばかりという男性が、DV加害者男性たちと語り合っている姿がちょっと印象的だった)。

画期的なのは2019年に、男性加害者への対応策が法的に策定されたことだ。この法律によりDVの加害者として有罪とされた場合、執行猶予を受けるためには一定の矯正教育の受講が義務付けられた。日本でも、司法レベルでのこうした対応が今後求められる必要があるだろう

イタリアでも、さまざまな男性の脱暴力の動きが少しずつ広がりつつある。いろいろな面で日本とも共通点のあるこの国の男性の動きから、学べるところ(あるいは情報を共有し合うこと)は、もっともっとあると思う。

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