名探偵は貰えない ラスグレイブ探偵譚より 著作『チームレッドへリング』 【本作のアプリ版、電子書籍版などは此方から】 ―2― 警部補さんが帰って、手にした小説を10ページほど読んだ頃、また、ベルがなり、店にお客さんが入ってきた。 「いらっしゃいませ……あ、アイリーン姉さん、それにアルさんも」 「やあやあ、店番ご苦労さん、わが妹よ」 「こんにちわ、クラリティさん。お変わりありませんか」 姉さん……アイリーン・スロウは、私の従姉。と言うよりは、姉妹
幸運対菓 ラスグレイブ探偵譚より 著作『チームレッドへリング』 【本作のアプリ版、電子書籍版などは此方から】 そんなことがあって一週間ほど経ったある日。 私とクラリティはパブ・イロジカルでランチを取ろうと店に向かっていた。 「ん……なんだ、この行列」 「あ、この列、イロジカルからずっと続いてるみたいですよ」 見れば、確かにイロジカルの店内からずらっと行列が続いている。オープンカフェもほぼ満席状態だ。 私の知る限り、この店に行列が出来たことなんてない。料理の質、ではな
幸運対菓 ラスグレイブ探偵譚より 著作『チームレッドへリング』 【本作のアプリ版、電子書籍版などは此方から】 「へえー、ケイトが料理するなんて、珍しいね」 応接テーブルの上には、大ぶりなベイクドチーズケーキがデンと鎮座している。 上は艶やかなきつね色のチーズ生地、下はしっとりしたクッキー生地。香ばしく甘い匂いを放っていた。 「まー、あたしだってやれば出来んだよ。ま、食べてみて」 先ほど一階の雑貨店にやってきて、そのケーキを差し入れてくれたのはケイトだ。 何でも、勤め
名探偵は貰えない ラスグレイブ探偵譚より 著作『チームレッドへリング』 【本作のアプリ版、電子書籍版などは此方から】 ―1― スロウ雑貨店は、首都市にある小さな雑貨店。 日用品や文房具、ちょっとしたお菓子などを売っているほか、洋服の直しなども扱っている……まあ、町のなんでも屋さん、という感じのお店。 私、クラリティ・エヴァンズは現在、この店のカウンターの後ろに座り、店番中。 お客様はまあ、多くもなく、少なくもなく、といったところ。