風と音楽とスキの在り処 #828
会社の先輩は、
そのバンドのボーカルを
かっこいいと言っていた。
彼は他のバンドでも活躍していて
フェスに行ってステージに駆け付けると、
隣にいる友人は早くも
盛り上がっていた。
彼を知るまわりの人はアツい。
ところで私の好きって
どこにあるんだろう。
実は薄々、そんなことを思っていた。
***
1週間前、8月最後の金曜日のこと。同じオフィスフロアでは、遠くの席に明かりが灯る。彼らが何の仕事をしているかは分からないが、遅い時間によく見る会社の同僚たちだ。時計は21時を回っている。
私は15枚あまりの書類を左手に抱えている。土日の休みを過ぎた月曜日は、忙しいのが目に見えていた。帰ろうか、もう一本書類チェックしようかと迷ったが、当日中の緊急な仕事ではない。私は書類をガサッとカバンにしまい、オフィスを後にした。
駅のホームで電車を待ちながら、カバンから取り出したスマホのスクリーンを見ると友人からLINE電話着信履歴があった。メッセージも届いている。
「えっ!」
以下は友人の20時40分のメッセージ。
「ELLEGARDENがyoutubeで無料ライブ配信やってる!!!」
「なんやて!」
私は急いで検索するのだけれど、時刻は21時半に時刻は近づいていた。配信開始は20時。既に1時間半が経とうとしている。
私は残業したことを後悔しかけた。さすがに1時間半も経過してたら配信が終わっている可能性は十分にある。ドキドキしながらページを開くと、幸運なことにライブ配信まだ続いていた。
奇跡…。
友人も慌てて連絡してくれたんだろう。
感謝が尽きない。ありがとう✨
私はカバンからイヤホンを取り出そうとするが、こんな時に限ってコードが絡まってしまっている。強い風と共に、地下鉄がホームに入ってきた。
***
学生時代、北海道内の大学に進学した私は、ある頃からライダーに囲まれていた。みんな走ることが好き。車でドライブも…というより走ることを楽しんでいた、という方が正解に近い。
私はというと、臆病で、結局ライダーにはなれなかった。その割に好奇心はあって、インドアな遊びに明るくなくて、ある頃から彼らと生活の一部を共有していた。車も自分でハンドルを握ることは少なかったけれど、もはやマスコットのように、乗るか乗せられるかして移動生活のような日々が続く。
北海道の雄大な大地にしかれた道を、風をきるように走る感覚が好きだった。そんな良さを同じように感じているだろう仲間といることは心地いい。
特によく一緒にいた人の車で流れていた音楽は、ELLEGARDEN(以下エルレ)だった。
私は一度気に入った音楽を見つけると、しばらくリピートして聞き続けることがある。当時はまだ他の音楽にフックされていたから、常時流れる曲を聴いて「きっと、この人はエルレが本当に好きなんだなー」なんて思っていた。
Salamanderも、風の日も、Missingも心地よい風とスピード感の中で聞いていた。
雪に埋もれる極寒の夜は、車内でも白い息が見える。Space Sonic の高温は冷たい車内に響いて、遠い海岸線のきらきらした明かりにも重なった。暖房が効いてあったかくなると「サンタクロース」が聞きたくなった。
こんな思い出をくれた君にも、ありがとう。
それから時は過ぎて、就職し、私は北海道を離れた。
同じくらいの時期にエルレは活動を休止していた。新入社員になり余裕を無くして、そのことを知ったのは少し後のことだった。どこか寂しい気持ちになった。
***
社会に出て、仕事を覚え、自分を社会規範に合わせていく日々が続く。自由を得るためには成長が必要で、それにはミクロでもマクロでも、ビジネス社会を理解して、人と付き合っていくことが少なからず必要なんだろう。
そんな日々が続く中、
音楽との関わりは
いつの間にか変化していた。
友人とフェスに行くことがあって楽しかったし、働いていた飲食店ではお店によって邦楽の有線が掛かっていることもあって、音は聞いていたはずなんだ。
でも、心が変わったから、
同じように音を拾わない。
だから響きにくいんだろうけど、
そのことにも気づかない。
気づいたのはいつかというと、
仕事をはじめてから10年が過ぎた
2018年のこと。
ある日、私はエルレ活動再開の記事を、
スマホのページでいくつも見ることになる。
わぁ、戻ってくるんだ♪
やっと、やっとだー♪
と思ったのが素直な感想。
どこか遠くに行っていた仲間が帰ってきたかのような喜びで、あったかい気持ちになった。全国には同じように思う人がたくさんいたんだろう。その証拠に、その年に行われたライブのチケットはことごとくハズレて、友人と涙をのんだ。数万人の争奪戦だったらしい。
一方で、自分に変化を感じたこともあった。エルレが過去の音楽になっていたものが、活動中になったことで、知らないうちに閉じていたフタみたいなものが開いたような感覚。心の一部が軽くなった。
エルレだけじゃなくて、色々な音楽を、
また自分らしく生活に取り込んでいいのだと、誰だか知らない存在に赦されるようだった。
***
地下鉄に乗り込んだ私は、もじゃもじゃになったイヤホンのコードを解いた。イヤホンを耳にすると「ジターバグ」が演奏されている。
そうして、聞くことができたのは
結局最後の2曲だけだった。
でも0か1かの差は大きい。
森の中のような場所で、ランプの灯りに囲まれてライブもトークも終わりに向かった。ほんの少しの時間だけど、ほんとに良かったと思った。
画面の中のライブでは、
最後にメンバーの4人の一言があった。
声が聞けるって嬉しい。
リーダーの生形さんの
毎回不安になるんだけど…って
トークにも何だか共感した。
野外で、アコースティックギターで
どういうライブのカタチになるのか
考えていて、
そういう見方をするんだなって。
ボーカルの細美さんは
今日も裏切らない
ロックな細美さん論。
こだわりがすごい。
そのこだわりの中に、だいじにしたいもの、エルレの活動へのスキみたいなものがあるんだなぁと思った。それがあるから、また会いたくなる。
そこでわかったことがある。
私は彼らのつくる
バンドが好きなんだなぁって。
歌詞だけじゃなくて、楽器の音や旋律も。
目に見える姿だけじゃなくて、
言葉の背景に見え隠れする
考え方も。
私の中にも因果はあって
学生時代の居心地の良かった大きな時間、繰り返しエルレの曲を聴いて、空気を吸って酸素が体をめぐるように、彼らの音楽を聞き続けていた。
そうやって一時期を育ったから、たぶん自分の一部がその音楽によって出来ているんじゃないかと思う。
かっこいいだけ、パフォーマンスだけでもない。歌詞だけでもギターだけでもなくてELLEGARDENが好きなんだ。
それが、夏の終わりの結論。
あの頃大好きだった仲間が好んで聞いていたエルレを、私は今大好きになっている。
そんな気持ちに支えられている。
いつかライブでエルレに会える、
そんな日が自分のものになりますように。
そうなりますように。
下記は引用です。ELLEGARDENをまだ知らない方にも。rockin'onさんの素敵な記事。
https://rockinon.com/live/detail/195528.amp?__twitter_impression=true
203号室 あおい
Aoi100_85/100
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?