ユーモレスク(序)
(故)Erich Wolf Segal 氏 とそのご家族様へ
tatikawa kitou
【 登場人物 】
① 蜂須賀・アルツ・嘉文
② 小栗 健児
―― プロローグ ――
広重の斜の驟雨
離陸
上昇
上へ上へ
そして上へ
ようやくその雲を貫く
太陽の目下の夢
六角の光線の紋
虹の奥行の飛沫
四方八方標榜
無謀
誹謗
いいえいいえ
いいえ
いつの日か
君は空の上を行くのだ
着陸に夢は見ぬ
※ ※ ※
生まれて初めての上京だった。朝一の新幹線で来た。
全国小学生トーテムポール大会授賞式。
昭和51年 11月2日(木) 午後3時11分。
蔵前国技館の一室の壇上に小学生のアルツとオグリが立っていた。山口県代表としてである。三階席まで満席で、アルツもオグリもジャイアンツの帽子を目深に被っていた。
二人とも引率の教頭に魔法を掛けて貰っている。人の頭はカボチャなのだ。深呼吸した。深く吸い込み長く息を吐き、そして手のひらに「人」の字を書いて飲み込んでいた。
全国から選ばれた代表十二校の児童二名ずつが、創作したトーテムポールの側に立っていた。中でも五年生はアルツとオグリだけで、他は皆六年生だ。
優秀賞の発表が迫っている。素敵なお姉さんが端から順にインタビューに回り始め、テレビカメラがそれを追ってくる。まだアルツとオグリは7つ8つ先だ。
オグリにこっそり耳打ちした。
「巨人、どうなっちょろう?」
そう。この日はプロ野球の日本シリーズの最終戦(第七戦)で、アルツもオグリも気が気ではなかったのだ。巨人×阪急。阪急三連勝の後の巨人三連勝。三勝三敗。勝った方が優勝である。二人にとってその最中の授賞式だった。
アルツの耳元にひっそり返した。
「分かるわけないっちゃ」
Continuer