「嘘が『めくれる』」というネット用語
この数年、ネット界隈でよく見かけるようになった言葉がある。
それが「嘘がめくれる」である。
意味はなんとなく推測できると思うが一応説明すると「嘘が露見する」という意味だ。
ネットというよりも、所謂「暴露系」と呼ばれる方々の動画のコメント欄でよく見かける。
暴露系の特性上、誰かの嘘を俎上に載せる、というネタが殆どだからだ。
最初に言っておくと、これは正確な日本語(共通語)ではない。今の所。
もし中高生が作文で「嘘がめくれる」と使おうものなら、先生は赤で「ばれる?」と訂正を入れるだろう。ちゃんと読んでいる先生であれば。
少なくとも、私はリアルにこの言葉を使っている大人には会ったことがない(子供は身近にいないのでわからない)。
分類としては、ネット用語でもあり、若者言葉にもあたる。
さて、そんな結論(共通語でも方言でもなく、ネット用語であり若者言葉である)から先に書いたが、この記事を作るに至ったきっかけがある。
「こんなもん若い子だけがネットで使う言葉だろ」とあたりをつけ、調べるまでもねえやと思いながらもぐぐってみたら、なんと頭の方でヒットするのが2022年8月にキックボクサーの才賀紀左衛門(1989年2月13日生まれ)氏(当時33歳)のブログでの発言を週刊誌が拾った記事だった。
参考例)才賀紀左衛門「嘘はめくれます 僕は娘や子供達をどんな形であれ全力で幸せにする事だけ」胸中明かす(中日スポーツ)
才賀さん、別に年寄りじゃないが若くもねえ。
これはもしかして方言、あるいは一部で局地的に使われていた昔からある若者言葉なのでは? と考えた。
予想と違ったので、ちゃんと調べてみようと思った次第である。
最初に考えたのは、方言説。
東日本にしか住んだことのない私の感覚からすると、なんとなく西の方言っぽい。才賀氏も大阪府堺市の出身だった。
そこで最初に立てたのが「暴露系ユーチューバー・ライバーのコレコレ氏(1989年8月12日生まれ)がもしかしたら使っており、そこから流行してしまったのでは」という仮説。
コレコレ氏は広島県出身である。が、広島弁には「嘘がめくれる」また「めくれる=露見する」に類する方言は存在しなかった。
なにより、動画を何本か拝見したが、私が見た限りコレコレ氏は「嘘がめくれる」という言葉は使用していない。そしてコレコレ氏は、年齢的なものもあるかもしれないが、比較的正確な日本語を使うタイプの方である。(追記:2023年からは使用されていました。ネット用語として定着した認識で使い始めたのかも)
発端がコレコレ氏ではないにせよ、爆発的に使用者が増えたのは、間違いなく「暴露系」からだ。
2016年までの検索結果には「嘘がめくれ(る、た)」「嘘はめくれ(る、た)」ともに、ほぼ出てこない。(因みに、Twitterで検索すると、2012年~2016年の間で10件も出てこないほどである)
ところが、2017年から急に検索結果に動画投稿者の記事ばかりが並ぶようになる。
2018年からはほぼ動画投稿者関連のもの一色だ。
では肝心の「めくれる」はどこから来たのか。
暴露系の誰かの造語だったのか? といえばそれは違う。
恐らく、反社・ヤクザ・裏社会でいうところの「めくれる」が語源というか大本なのだろう。
「めくれる」は「隠していた犯行が発覚しはじめること」の意である。
なお、検索すると一番上に「刑事弁護オアシス」(警察や弁護士が裏社会の人と話をする際にスムーズに行うための、ヤクザ用語集)というサイトのページが出てくる。
「めくれる」は警察ではなく裏社会の人々が使うヤクザ用語だ。
ではヤクザ用語がそのまま流用されたのか、といえばそれもまた違う。
本来のヤクザ用語は「めくれる」のみで「隠していた犯罪が露見する≒嘘がばれる」という意味になるので、基本的に頭に「嘘が」とつけては使わない(まったく使わないわけではない)。
重言(例:頭痛が痛い)だから、というよりは、本来「犯罪」の露見に使うものなので、「嘘」という矮小かつ例外的に用いる場合は「嘘が」と付け加える、というニュアンスに近いのだろう。
この記事において「ネット用語であり若者用語」と断言している理由はこれで、ネット用語ではあくまで「嘘がばれる」の意のみで限定的に使われ、犯罪については使われないのだ。
小中高生に支持されているお行儀がよくないタイプのyoutuberは、なぜかやたらと反社用語や古めかしいヤンキー用語を使う人が多い。例えばステゴロとかタイマンとか。
Googleで検索できる限りさかのぼったところ、ネットの検索結果で出てくる最古のものはこちら、2007年1月17日、2ちゃんねるの「愛媛・松山暴走族スレ」の327であった。
※なお、「嘘がめくれた」の最古の検索結果では、2016年に元暴力団組長さんの書いたコラムがヒットする。唯一「嘘はめくれる」で2014年、離婚したい女性(地域年齢プロフィール等は不明)のブログがヒットするが、その方が本当に唯一の例外で、あとはすべて犯罪関連のものしか出てこない。
このこと(暴走族スレ)からもわかるように、
「嘘がめくれる」という言葉は
元はヤクザ・任侠用語
↓
クソガキ・不良がイキって真似する
↓
一部地域の子供が感化されて使い出し、一部地域で若者言葉化
↓
ネットユーザー或いは投稿者が使い始めネット用語化
という流れで、だいぶ前から使われ始めていたものが、ネットの一部で浸透したようだ。
オタク用語→ネット用語→女子高生用語(とマスコミが定める)の流れのようなものである。
※余談
確信が持てないので余談なのだが、有名所の暴露系の方々を調べてみたら、「ノックチャンネル」を運営するノック氏が「嘘がめくれる」で検索にあがってくる。
youtubeの検索窓に引用符つきで"嘘がめくれ"と入れて検索すると、ほぼ「ノックチャンネル」(切り抜き含む)しか出てこない。
ではなぜ確信が持てなくて余談扱いなのかというと、「嘘がめくれる」という動画の投稿が大体2020年あたりからなので、流行しだした頃と微妙にズレがあるから。
ライブはわからないのであくまでyoutubeだけの検証になってしまうので申し訳ない
※ブログにも同じ記事を投稿しました
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