リバーシブルのロングコート
三年前に買ったロングコート。今年も素知らぬ顔で着ている。
グレーとネイビーのリバーシブルになっているけれど、ずっとグレーの顔をしている。
今年もそろそろ終わる。そんなときに会えることになった。
人々が賑わう場所へ行くことは久しぶりすぎて、私は着ていく服がないことに気づいた。あの頃の私を知っているあの人にガッカリさせないような、それでいて頑張りすぎないような服を着ていきたかった。
待ち合わせの当日になってしまった。一時間という限られた時間で、目星をつけていたいくつかの店を回った。今夜はぐっと冷えると知っていたけれど、寒さよりもデザインを取った。あの人と並んで歩くことを考えると少し背伸びしたかった。
待ち合わせの場所につく前に携帯が鳴った。
「少し遅れてる?」
「ごめんなさい。もう着くところ」
携帯で話しながら地上にでるとあの人がいた。私の好きなシルエット。にっこりと手を振って再会できた。
近くでイルミネーションがきれいなことも知っていたけれど、そこには行かなかった。慣れないブーツですでに足が痛かった。
お店につくとコートを掛けてくれた。タグはちゃんと切ったよな。今日のために、それもさっき買ってきた服だと思われたらどうしよう。
あの人は、DANTONのウールのコートを着ていた。あの人らしいと思った。
普通の居酒屋で、普通に食事をして飲んだ。それだけで楽しかった。会えなかった時間は長かったから、変わっているところももちろんあったけれど、変わらないところもちゃんとわかった。
同じ言葉を使っているのに、あの人が話すとほかの人とは違う鋭い部分と優しい部分があるように感じる。言動の端々に一喜一憂してしまうのは、あの人のことが好きだからだろうか。でも、そんな言葉の中にはほかの人ではわからないことがお互いわかってしまうようなそんな感覚も確かにあった。
帰り道の階段で私が躓きかけた。前にも同じようなことがあって、そのときは確か手をさっとだしてくれて、そのあとしばらく手を繋いで歩いた。けれど、この時手は差し伸べられることなく、私もひとりで持ちこたえた。二人ともそのことを思い出して、少し笑った。けれど、そのことには触れずに駅まで歩いた。
スクランブル交差点、ここを渡れば違う道。前に、私が終電まで話したいと言ったことがあった。けれど、この日は、
「じゃあ」
「うん、じゃあ、よいお年を」と言って別れた。
後ろを振り返ることもなく、そそくさと電車に乗り込んだ。いつもなら「またね」というところなのに、それすら言えなかった。
それから、数回会った。けれど、もう今は会っていない。
嫌いになったわけではない。けれど、もう会えない。
今でも話したい気持ちは消えていない。けれど、掛けることはできない。
時間とともに薄れては、たまに思い出しての繰り返し。冬がやってきてこのコートに手を通すと、ひとりくすりと笑ってしまった。
素知らぬ顔でこのコートを着られるようになったなと。裏返して、違う顔で着たらいいのにとも思うけれど、相変えあらずあの日と同じ色で着ている。