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旅の匂い

ロンドンからトルコにやってきた。ここはヨーロッパとアジアの分岐点。

空港から一歩外に出ると
涼しい風が体をすり抜けた。ほとんど街灯がついていない薄暗い通路にはトルコ人が行き交う。
まさに異国の地に降り立ったんだな。と自分を俯瞰しながらタバコに火をつける。

なぜか喫煙所には、必ずと言っていいほどライターを借りてくる奴がいる。今回もやはりライターを貸してくれ。と声をかけられた。

タバコを吸うのにライターがない。誰かに借りれる前提でタバコを咥えているのだろう。

「タクシー?タクシー?」
と大声で呼び込みをしてくるトルコ人

もちろん答えは「NO」

移動はバスか電車が安いのは誰もが知っている。そして、タクシードライバーが前のめりで呼び込みをしてくる国は、少し警戒が必要だ。

HAVA BUSを探し、タクシム行きを探す。

「I wanna go to Taksim 」

案内人は笑顔ひとつ見せず

「Next bus!!」

と一言答えるだけだった。

「How can I pay?」

「Inside」

そんな会話を済ませて、車内に乗り込んだ。

僕はいつも最後尾の座席の窓際に座る。国によって様々な乗客の立ち振る舞いを眺めるのが楽しみなのだ。その特等席は最後尾の窓側ということになる。



空港行きのバスにも関わらず、時刻表通りに運行されず、遅延することが当たり前かのように、バスはなかなか出発しようとしない。

バスの予約もなく支払いもバスに乗り込んでから一人一人徴収される。

全てがクレジットで支払いが可能だった、アイスランドやロンドンとは話が違う。

料金は210リラ
日本円で約950円

空港から市街地までの直行バスはこんなもんだろうと思い、両替しておいた210リラを支払う。

バスが出発した。


eSIM という便利なサービスが世の中に広がる中、この国ではその契約をしなかった。

空港間の移動だけというものもあったが、インターネットが繋がらない異国の街歩きを久々にしてみたかった。

空港から遠ざかると、空港のWi-Fiも使えなくなり、強制的にインターネットから切り離された。



この不便な環境が、どこか僕の心をワクワクさせている。旅には不便がつきものなのだろうか。

バスの隣の席に座ってきた女の子は、艶やかな黒髪にはっきりとした顔立ち。年は20代半ばだろう。異国情緒溢れるこの国の女性はとても美しい。僕は人形のような金髪の白人よりもアジアの血が混ざった顔に目が入ってしまう。


細く入り組んだ道を大型のバスが神がかったドライビングで前進していく。路上には大型の野良犬が寝転がり、挨拶がわりのクラクションが至る所で高々と鳴り響く。

街路樹の影にはトルコ人の親父たちが何をするでもなく、ただ座り込んでいる。路上で座っている人を見かけると100%親父だ。タバコを咥え、ただ目の前に繰り広げられる光景を眺めている。


ただの空港間の移動ではあるが、なんだか旅の匂いがした。

旅の匂いはいつも刺激的だ。

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