かき揚げそば族急増中?ドラマに影響されて

 やっぱりNHKはすごい。その影響力の大きさを感じる、こんな出来事があった。

 今日の昼、遅い昼食をとった時のことだ。立ち食いそば屋で、「かき揚げそば」を食べた。そして、カウンターで注文の品が出てくるのを待つ間、後続客から次々と入る注文を聞いていて、ふと気づいた。「かき揚げそば」率、異常に高し。

 改めて見渡すと、一つ置いた隣の30代女性客も、奥のテーブルの中年男性も、「かき揚げそば」だった。3人か4人に1人くらい、違う献立が混じるが、それにしても「かき揚げそば」は大人気。バリエーションとして、「かき揚げそば、稲荷ずし付」という人までいた。確かに手ごろな価格で頼みやすい料理ではあるが、かといって、丼ものセットでもなく、キツネやたぬきでもなく、これほど「かき揚げそば」派が多いのはいつものこと、だろうか。

 で、思い出した。そういえば、先週末(11月3日)のNHKドラマの中で、いかにもおいしそうな「立ち食いそば屋のかき揚げそば」が紹介されていたのを。

 ドラマは「この声をきみに」(大森美香脚本、金曜22時~)。竹野内豊演じる冴えない大学准教授・穂波が主人公だ。妻に離婚され、自分を変えるために通い始めた朗読教室で穂波は、人の声や話を聞き、自分の声で気持ちを伝えることの大事さに気づいていく。11月3日放送の第7回で、朗読教室の仲間がイベントで読んだのが、東海林さだおの「丸かじり」シリーズの「天ぷらそばのツライとこ」というエッセイだった。

 東海林が描写する「天ぷらそば」とはかき揚げそばのことで、かき揚げをつゆに浸して、溶けていくにつれ味わいが変わる様を楽しむ。食べ物について語らせたら超一流の東海林さだおの描く世界は、文章だけゆえに想像力を倍加して掻き立てる。テレビではその朗読に、料理のおいしそうな画像がアップでかぶせられる。

 劇中、朗読を聞いた穂波らは、たまらず帰途に立ち食いそばへ行ってしまうほどだ。だからきっと、視聴者も、ドラマを金曜の夜に見た時から、こんどランチに立ち食いそばでかき揚げそばを食べるぞ、と心に誓った人が多かったのに違いない。

 ということを、「かき揚げそば」が次々と注文されるのを聞きながら思った筆者である。もちろん、筆者のごとく、なぜかは知らないが妙に「立ち食いそば屋」に行きたくなり、不思議と「かき揚げ蕎麦」に心惹かれて注文してしまった、という、潜在意識に深く働きかけられていた視聴者もいたに相違ない。

 そして、東海林さだおが書いた通り、食べ終わったら油まみれの口元を世間にさらすという「ツライとこ」を経験したのであった。

(2017・11・7、元沢賀南子執筆)

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