もう六段、中学生棋士の藤井五段、羽生竜王に勝つ 将棋界の貴乃花vs千代の富士
中学生棋士の藤井聡太五段(15)が2月17日、将棋の朝日杯で優勝して六段への即日昇進を決めた。しかも公式戦初顔合わせとなった羽生善治竜王を破ってのこと。優勝インタビューで「まだまだ自分に足りないものは多い」「日々精進して上を目指したい」と答えるなど、おごらない姿勢は相変わらず。羽生・藤井対局は、さながら21世紀の千代の富士vs貴乃花。世代の対決がしばらく楽しめそうだ。
藤井六段は2016年10月にプロ入りしたばかり。わずか1年4カ月で、四段から六段になった。この間、プロ初戦から負け知らずの29連勝、羽生竜王に非公式戦で勝利など、話題は尽きなかった。かつて神童と呼ばれた加藤一二三九段の持つ最年少記録も次々と破ってきた。五段昇段からわずか16日後の六段昇段も決め、15歳6カ月の若者はまだまだ伸びそうだ。
にもかかわらず、インタビューでは謙虚なまま。今回の優勝も「思い切りぶつかっていくだけと思っていた。実際にその通りに積極的に指せたかな」「実力的にも望外だった」、だが「(この勝利は)ゴールでは全くないので、そういう意味ではこれからも気を引き締めていかなければならないと思っている」などと話した。
また、「将棋はとても奥が深いゲーム。まだまだずっと先があると思っている」、今は「まだまだ実力をつける時期」などと冷静に自己分析している。4月に高校進学を控えた中学生とは思えない、落ち着きぶりだ。(インタビュー内容はいずれも朝日新聞デジタルから引用)
まったく関係がないけれど、藤井六段が羽生竜王を破る姿に、相撲界に貴乃花が出現した時のことが重なって見える。当時、絶対的王者だった横綱・千代の富士に優勝決定戦で土をつけ、引退の引導を渡したのが貴乃花だった。千代の富士から貴乃花への世代交代の一戦とは、今回の朝日杯はもちろん重みが違うが、長く続いた羽生竜王の時代がいよいよ終盤に入ったことを痛感させられる。
羽生竜王は佐藤天彦名人に負けて名人位は失っているものの、まだその「天下」は終わっていない。だが、15歳の藤井六段の出現は、佐藤名人らとは全く違う人種の登場を思わせる。旧来型の教育を受けた天才・羽生と、コンピューター将棋で腕を上げた世代の天才・藤井との対立。ここしばらく、世代を代表する天才同士の世紀の対決が見続けられるのだろう。
(2018・2・17、元沢賀南子執筆)