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[イリヤの空、UFOの夏]BARCAP-S06  ミッション 要線戦闘空中哨戒


「六月二十四日は、全世界的に、UFOの日だ」
 
そして前夜。
誰もが空を見上げ、宇宙を感じた。
スーパームーン。
地球に迫る大きな満月。
 
2013年 6月24日 日本
僕たちのUFOの日は、巨大な月と共にやってきた。
 
ある光景が脳裏をよぎる。
月を背に、自由を掴んだフーファイターが空を舞う。
あらゆるしがらみから解放され、孤独の力すらも越えて空を飛び、敵を倒す。
そんな光景。
目を瞑る。
思い出す。
少女が操る、黒い機体。
その機体はこう呼ばれていた。
ブラックマンタ。




イリヤの空、UFOの夏という作品を初めて読んだのは、浅羽と同じ年齢の頃でした。
作品名だけはそれより前から知っていましたから、遠出の際持ち運びに便利な小さい本を買おうと思ってこの作品を選んだことが読み始めるきっかけでした。
そして当時絶賛絶望中だった私は、この作品にしてやられたわけです。
作品の素晴らしさたるや、ここでわざわざ書く必要もないでしょう。
OVAも、全巻見ました。
尺が圧倒的に足りない。それはだれもが分かりきっているものの原作が素晴らしいが故に不平不満も少なくないであろうOVAですが、それでも私はアニメーションである大きな意味を感じたシーンがあります。
それがVol.3 十八時四十七分三十二秒 のラストシーン。
UFOと踊る。
UFOの夏の、夕暮れに焼けた空の情事。
言葉の無いラブストーリー。
きっと、イリヤの空、UFOの夏という作品において、良い意味で最も感動的なシーンです。
そして、その意味ではOVAが原作を超えることができたと言えるシーンでもあります。
原作では、静けさと興奮が臨界点ギリギリで描写されていて、その巧みさ含めしてやられたような感動がありました。
文章だからこそ味わえる余韻とでもいいましょうか。
しかし、OVAでは榎本との回想をバックにはじまり、音楽は少しずつ盛り上がっていき心を揺さぶってきます。そして幻想的なイリヤとの挨拶……心の震えが最高潮になったその瞬間、彼女の機体は姿を見せ、二人は踊り始めるのです。
アニメーションだからこその味わえる感動、しかし原作で感じられた余韻もどこか大切にしているような。
映像的な美しさ、かっこよさ、二人の心理的描写、すべてがクライマックスの感動でした。
OVA全体で見ても、このシーンが最大の山場といっていいでしょう。
極端な話、シェルターの話でもデートでも鉄人定食でも逃避行でも最終話でもなく、この1シーンのためだけにOVAがあると言っても過言ではないと思っています。
だからこそ、最終話で自らの意志を持ってイリヤが出撃した際の描写が腑に落ちないのですがね。
 
と、自分語りが長くなってしまったところで……
OVAではブラックマンタがデザインされていましたね。
原作ではあまり語られない部分でしたから、だからこそOVAでブラックマンタが空で踊る様子はとても印象的でした。
それだけでなく、操縦する様子なども含め、目立ちはせずともブラックマンタに関する見どころはところどころありましたから、そうなると俄然”あれ”をやりたくてしょうがなくなってしまいます。
OVAだと「入れて入れて!」で一部人気を博している”あれ”。
そう、イリヤが持っていたゲーム「BARCAP-S06」です。
OVAでは、少しだけゲーム画面や操作する様子が描写されていましたが、なるほどどうしておもしろそうではありませんか。
原作の時点で実に魅力的に描かれていたそのゲーム内容(浅羽はそれどころじゃなかった)ですが、私としてはもう(そのゲームに)我慢ならないわけです。
あの踊る機体を一度見てしまうと、思い通りに操作できたらどんなに面白いだろうかと考えずにはいられないのです。
ああ、やってみたい。
折角ですから、指示(命令)されながらやってみたい。
いや、たしかにDS電撃文庫の方でミニゲームとして搭載されているらしいですけど、そうではなく。
重力をものともせず、ダミーとミサイルキャリアを思うがままに従え、フォーメーションを編成しターゲットをロックして接近して……!
他の要素皆無で、リアルタイム60分の要線戦闘空中哨戒だけでいいから、やってみたい。
ブラックマンタを操ってみたい。
あらゆるしがらみから解放され、孤独の力すらも越えて空を飛び、敵を倒す。
浅羽と同じくなんの力も無い私でも、ゲームの中ならイリヤの代わりにブラックマンタを操れるかもしれない。
イリヤが見た空を見ることができるかもしれない。
UFOの夏を迎えられるかもしれない。
 
 
 
2013年 6月24日 
おそらく一年間で最もイリヤの空、UFOの夏が読まれる日。
スーパームーンと共に訪れたその日は、全世界的にUFOの日です。
 


2013-06-30公開
#7【イリヤの空、UFOの夏】BARCAP-S06 ミッション 要線戦闘空中哨戒

NavelFilmブロマガ Navel Magazineにて掲載

あとがき

この記事はスーパームーンから着想を得た隔週投稿連作記事の一本目として書いたもので、本来は2013年の6月23日に投稿される予定でした。しかしながらこの期間は毎週連続更新をすることとなり、予定日の通りの投稿か、次の記事との連作の形を守るかを選ぶことになりました。結果的に連作にすることを重視することに決め、前回の記事を先に投稿することになったため、投稿日が予定より一周遅れたという裏話がありました。

ということで、もともと投稿予定だった6月23日の夜にスーパームーンが見られるという当時タイムリーだった話題から、スーパームーンと共に6月24日UFOの日が来る!と発想を飛躍させ、ゲームそのものではなく作中に登場する非実在ゲームを取り上げる、という試みで執筆した記事でした。

NavelFilmのブロマガにはゲーム記事と題して連載していたこともあって、ライトノベルのタイトルが表題にあるというのが一際珍しく、この記事の特徴といえるでしょう。しかしあくまでゲーム記事であるという視点に立つのであれば、「この記事はBARCAP-S06というゲームを取り上げている」ということになります。そしてこのゲームが登場するイリヤの空、UFOの夏という作品は投稿当時の時点でもライトノベルにおける古典的な扱いを受けていたくらい高く評価されていた名作です。読んだことのない方は是非、6月24日すなわちUFOの日に、幼いころの自分を憑依させて一気に読破してほしい作品です。

そんな物語の中に登場する、想像上の代物でしかないゲームを遊びたい、と一言でまとめてしまうと荒唐無稽な戯言でしかない内容ですが、ノスタルジックなUFOの夏を文書から微かにでも感じ取ってもらえれば幸いです。

なお、現在は浅羽がゲームをプレイしている様子を、東映アニメーション公式Youtubeにて公開されているアニメ1話で視聴することができるため、そちらの視聴も強くお勧めします。本当に良い時代になりました。