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【FRAGILE~さよなら月の廃墟~】記憶アイテム「FRAGILE~さよなら月の廃墟~」



二週間前、地球に月が接近した。
地球に最も近い満月 スーパームーンである。
 
 




月と言えば、こんなゲームがあったんだ。
FRAGILE~さよなら月の廃墟~ というゲーム。
本当に素晴らしいゲームだった。
しかしこれはいったいどんなゲームと言えばいいだろう。
RPG?
アクションゲーム?
アドベンチャーゲーム?
ホラーゲーム?
 
世界感や雰囲気が素敵で、
ただ廃墟を探索して、
そこには確かな記憶があって、
出会いがあって、
別れがあって。
幻想的で影絵のような記憶を辿ってみると、
FRAGILE~さよなら月の廃墟~という作品は、ゲームではなかった。

じゃあ、なんだろう。
きっと、芸術作品だろうね。

そんなものじゃないって?
もし納得がいかないなら、こういえばいいかな。

この作品は “リプレイ” なんだ。
本質は主人公セトの回想。心象風景。
印象的だ、魅力的だと感じることがあるとすれば、
それは彼がそう感じた記憶に共感しているから。
だからそれを描く”リプレイ”に感動を覚える。
物足りない、薄っぺらいと感じることがあるとすれば、
それは彼がそこまでしか知ることができなかったから。
だから“リプレイ”の良し悪しをどう感じるかは、
その人の共感性能力によって決まる。きっとね。




それでもなお、この作品に対し納得できない思いがあるのだとすれば、それはこの作品がやっぱりゲームだからだろう。
リプレイではなく、プレイだと認識したその瞬間、この作品はゲームという形を見せる。
そして、私たちにロールプレイを強制してくるのだ。
プレイではない。ロールプレイ。
 
その魅力的な世界観を歩き、そこにある廃墟を探索したい。そしてなにかを見つけたい。
ただそれだけでいい。たったそれだけのプレイをさせてくれればいいのに、それをさせてくれない。
イベントが展開し、キャラクターたちが喋り、物語が進み、エンディングを迎える。
ロールプレイ。
たった、それだけのことだ。たったそれだけのことだけれど、そのロールプレイは、残念なことにユーザビリティに乏しい。
そして、人によっては、納得がいかないまま幕を閉じてしまう。
 
 
この星は、こんなに広くて、世界中には、たくさんの人があふれているのに
 
どこかにまだいるかもしれない人を探しにも行けず
こんなに広い世界をさまようこともできず
崩れかけた壁の隙間も、割れたガラス窓の向こうも見ることなく
全てが赤茶け酸化していく世界を味わうこともできず
この星はおろか、月の廃墟すら見つけられぬまま
作品においていかれ、追いかける暇もなく
ぼくはどうして一人ぼっちのままエンディングを迎えなければいけないんだろう
 
 
 
 
二週間前、地球に月が接近した。
地球に最も近い満月 スーパームーンである。
 
そして、月は再び地球を離れる。
二週間後には最も離れた位置まで遠ざかるのだという。
 
それが、今日。
さよなら月の廃墟。
月はどんどん地球から離れていく。
しかし孤独の力は僕と月を決して離さない。
ぼくは一人ぼっちだったけど、だからこそ「フラジールの世界」「物語」はぼくの中で確かに存在している。
価値観として。世界観として。
記憶として。



2013-07-07公開
#8 【FRAGILE~さよなら月の廃墟~】記憶アイテム「FRAGILE~さよなら月の廃墟~」

NavelFilmブロマガ Navel Magazineにて掲載

あとがき

スーパームーンの後、月が最も離れる日ということで、小馬谷氏が当時最も影響を受けたと言っても過言ではないゲーム、FRAGILE~さよなら月の廃墟~を、まるで作中に登場する記憶アイテムかのように振り返る記事である。

前回の記事と合わせてスーパームーンから着想を得た連作記事といった趣で書かれており、公開日が七夕であることに目もくれず、月が最も離れる日であることに着目し、さよなら月の廃墟と謳っているような随筆は、良くも悪くも他ではなかなかお目にかかれないのではないかと思われる。


小馬谷氏が多忙で動画投稿ができない代わりにゲーム記事が連続投稿されていた時期だったはずなのだが、記事の内容が小馬谷氏の琴線に触れたのか、この記事の編集と編集後記はかなり熱が入っているように見受けられた覚えがある。
NavelFilmブロマガでは筆者が寄稿したゲーム記事だけでなく、小馬谷氏による投稿動画のコメンタリー記事等も時々投稿されていた。それらも含めたNavelFilmのブロマガ史上において、もっとも小馬谷氏の心の内に秘めたる想いが込められていた文章が、この記事の編集後記だったのではないだろうか。
それを当時のまま掲載できないことは痛恨の極みだが、せめて記事だけでも楽しんでもらえると幸いだ。