対面口頭以外の情報共有とコミュニケーションは「QWIC」

「対面で口頭」以外のやり方もあります。もちろん、やり方だけだけでは上手くいかず、考え方もセットになっていることが多いです。

このあたりを端的にまとめたのが QWIC です。

QWIC に頼ることで、対面口頭という原始的な働き方から脱せます。より融通が利き、多様性にも配慮でき、ストレスもなくし、もちろん成果も出せるようになります。

働き方を変えると言いますが、具体的なやり方や考え方を知らねば何もできません。QWIC はその入門になります。


QWICとは

QWICとはQ&A、Wiki、Issues、Chat の略であり、対面口頭以外のやり方でコミュニケーションや情報共有を行うための手段を並べたものです。

以下、親しみやすい順で、概要に入ります。


Chat

Chat(チャット)自体の解説は割愛しますが、ここではTeamsやSlackといったビジネスチャットを指します。

LINEなどただのチャットは含みません。

ビジネスチャットは、すでに多くの人がご存知だと思います。パンデミック時のリモートワークにも貢献し、ビジネスにおいて欠かせない道具担っていると思います。


区分け

ビジネスチャットの特徴は「区分け」です。

LINEなどと違って、ワークスペースやチャンネルやスレッドといった単位があり、様々な組織やプロジェクトが共存できるようになっています。


時系列指向

区分けの力を持つことを除けば、ビジネスチャットは基本的にはただメッセージが時系列に流れるだけの、単純な世界観です。これを時系列指向と呼びます。

タイムラインにメッセージを流し込む。時間軸に沿って流れる。

時系列指向はわかりやすいですが、空気があるため今現在の話題しか扱えません。たとえば今タイムライン上でAの話題になっているのに、突然Bの話題を書くことはできないでしょう。また、同時に3つの話題を扱うなんてこともできません。

また過去の情報も探しづらいです。良くも悪くも、今現在のことをやりとりする力しか持ちません。この限界のせいでオンライン会議が多発してしまうことは、すでに皆さんがご存知のとおりです。


Wiki

Wiki(ウィキ)とは皆でページを編集したり、ページからページにリンクを繋いだりといったことが行えるツールです。

読み手としてはWikipediaやゲーム攻略Wikiなどで知られていると思いますが、書く立場としては案外マイナーです。


時系列指向を補完する

Wikiのメリットは、情報をページとしてしっかりと残せることです。時系列的で、すぐ流れてしまうチャットとは違います。

チャットはフロー型で、Wikiはストック型と言いますが、そのとおり両者は似て非なるものです。チャットにてリアルタイムなやり取りして、情報はWikiで残すというハイブリッドが一般論としては望ましいです。


Wikiは敷居が高い

手段としてWikiがいまいち浸透しないのは、その敷居の高さにあります。

まず「かんたんに書ける」といっても、チャットよりははるかに難しいものとなります。たとえば以下のハードルがあります。

  • 自分が今、どのページを見ていて、どこに何を書くかといった現在地と周辺地理の判断が要ること

  • 専用の記法を使って書く必要があること

  • 文字ばかりで、情報密度が高いため、毛嫌いしやすいこと

近年では書きやすいWikiも多数登場していますが、どれもSaaSであり、それなりに高額のため、古い組織は中々導入できません。かといって、昔から存在するWikiは、自分でサーバーを立てて構築せねばならず、これはこれでハードルが高いです(そもそも単純に書きにくいです)。

もう一つ、ナレッジ指向的というハードルもありますが、次で扱います。


ナレッジ指向

Wikiは「皆が見る場所」に「ただ一つの記入領域がある」という構図です。ページこそ分かれていますが、たった一つしかないわけです。

内部はページで分かれているが、全部全員に見えている。ゆえに公的になりがち。

それゆえに内容は公的で、真面目なものになりがちです。同調しがちで、階層的な日本の文化ならなおさらです。この「ちゃんとしたことしか書けない」感じをナレッジ指向と呼びます。ナレッジと呼べるような、ちゃんとしたものだけを書いていこうというわけですね。何らかの自治が発生することもよくあります。

Wikiは情報を残せますし、ナレッジ指向そのものも有益な立場ではあるのですが、気軽に残すという意味ではまだまだなのです。


ちなみに、すでに述べたとおり、近年登場するWikiを使えばハードルはだいぶ低くて済みます。

たとえばCosense(旧Scrapbox)は、他のWikiでは続かない人も続いたり、学生や新人でも比較的かんたんに使えるほど出来が良いと思います。

他にもありますが、ITエンジニア向けの者が多く、一般利用するには厳しい印象です。


Q&A

Q&Aとは質疑応答を行うシステムです。

ビジネスで社内で使う道具としてはあまり盛り上がっていませんが、インターネット上ではQ&Aサイトとして知られています。

Yahoo!知恵袋や教えてGoo!はご存知の人も多いでしょうし、技術者向けのStack Overflowや、教養を持て余してる人達のためのQuoraもあります。


社内で使う道具としては未成熟

Q&Aは、QWICの中では唯一成熟していません。

というのも、Q&Aでは「たくさんの人が見ている」という数の力が重要であり、これを社内で満たすのが難しいからです。社員全員が自由にアクセスできて、誰でも質問や回答ができる文化が必要です。

※そもそも従業員の人数が要ります。最低でも数百、できれば1000以上。大半の組織はここに当てはまりません。人数の少ない組織は皆忙しいですから、Q&Aを見て答える暇などないという世知辛い問題もあります(組織力学と呼べるほどありふれた現象と思います)。

また、仕事で扱う情報には機密情報や人の情報も含まれますから、それらを上手く漂白して扱うスキルも要ります。このスキルは発信が得意な人は持っていますが、大多数の人は持っていません。おそらく「機密情報があるから無闇に書けない」などと正当化するでしょう。

さらに、そもそも「質問を見たりしたり、あるいは回答をしたりする」ための余裕も必要です。たとえば1日1時間くらい、恒常的に確保できるでしょうか?

現時点で良いツールが無いのもそのためでしょう。そもそも文化が追いついていないのです。この文化を壊せるキラーアプリの登場が待たれます。

ちなみに『仕事術2.0』では、Rapid Q&Aという手法を提案しています。


Q&Aサイトもエンタメ化している

Q&Aサイトは参考にならないか、と思われるかもしれませんが、ならないと思います。

これらは結局エンタメ化しているからです。誰でも質問できて、答えが確実に、できれば早くつくという「マッチング」の仕組みはまだまだです。Q&Aサイトの盛り上がりは、面白そうな質問に面白そうな回答がついて、そこが盛り上がっているという構図だと思います。

※もちろんちゃんとQ&Aが機能している場面もいくらでもありますが、これはインターネット全員という広い範囲だからです。かつ、これも安定してはいません。そういう意味では、ランダム性の高いエンタメと言わざるを得ないでしょう。


質問・回答の使い捨て

Q&Aは、Wikiと同様にストック的なあり方であり、一度質問・回答した情報は残り続けます。「質問する前に調べてね」とか「こっちでもう回答されてるよ」といった光景もよく見られます。

このストックという価値観は、Q&Aの普及啓蒙を阻む一つの壁でしょう。そもそも自分で調べたりできないか、そうしてられないからさっさと質問したいのです。

でしたら、いっそのことチャットのように、フロー的に扱った方が良いのかもしれません。前述しましたが、Rapid Q&Aは、この考え方で提案をしています。残ってるかどうかは関係ない、とにかくすぐ聞いてすぐ答えが返ってきたらそれでいいじゃない、としています。


アンサー指向

Q&Aの本質は「回答が来たらそれでいい」です。これをアンサー指向と呼びます。

質問者が納得する回答が来たら、それでいい。

回答情報をストック的に残すだとか、エンタメ化するような雑談的な内容も許容するとか、そういったことをしているからブレているのだと思います。

Q&Aを考えるのであれば、質問した人の質問に早く回答が届くことを考えるのが良いでしょう。アンサー指向です。答えが来たらそれでいいのです。

もしQ&Aに取り組まれる人がいたら、アンサー指向を心がけてください。


Issues

1つの課題につき1つのページが与えられて、そこで議論を行うという形のシステムを指します。

名前はGitHub Issuesから取っていますが、「チケット」のほうが馴染めるかもしれません。

異世界ファンタジーを読まれる人は、冒険者ギルドに掲示されているクエストの、あの紙をイメージしてもらえればと思います。また、タスク管理のシステムを使っている人は、すでに馴染みがあるとも思います。


トピック指向

現在のところ、Issues は課題管理やタスク管理用途がメインですが、本質はこれに留まりません。

Issues の本質は一つの話題を一つのページで扱えることです。

これをトピック指向と呼びます。トピック(Topic)とは「話題」の意味です。

話題1は、AさんとCさんが話題1ページでやれば良い。

トピック指向な道具を使うと、話題のそれぞれを切り離すことができます。用がある人は、そのページに行って、そこでやりとりすればいいのです。各ページは必要な人だけがアクセスすればいいですし、必要なら別の人にも共有できます――と、要は話題のそれぞれを独立して扱えます


トピック指向を制する者が仕事を制する

仕事術2.0』では、このトピック指向を重視しています。

現代的な、融通の利く働き方を実現するためには、このトピック指向が必要だからです。

  • チャットのように、時系列に流し込んでごちゃごちゃするのでもなく

  • ウィキのように、ナレッジ級の限定的なことしか書けないものでもなく、

  • Q&Aのように、質問ベース回答ベースという縛りでしか書けないものでもなく、

より融通な情報共有とコミュニケーションが行えます。誰でも、知りたい話題のページに行けば見れますし、書けば参加もできます。

あらゆる話題を残して、関連のある話題を繋いで(ウィキの部分で登場するリンクの概念)、もちろん上手く探せるようにもして、盛り上がりも可視化して――

そういった工夫があれば、仕事術2.0が掲げる脱拘束も行えるようになります。


現状、これに最も近いものは、上述したCosenseです。

Cosense自体はWikiですが、1話題1ページを心がけることでトピック指向になります。他のWikiよりも気軽に書き込めますし、整理整頓が不要な世界観にもなっているためナレッジ指向も起きにくいです。

※むしろ書き易すぎて、逆に色んな人の書き込みで散らかってしまう問題が生じてしまいます。これを抑えるために、意図的にナレッジ指向を取り入れねばならないとの(公式の)考察もあります。


おわりに

この記事では QWIC それぞれの概要を解説しました。

すでに基本的な考え方と、いくつかの道具(ツール)は挙げていますので、より詳しくは各自深堀りしてください。


重要なのは、小さくてもいいので、実際に試してみることです。解説自体はかんたんですが、意外と「世界観」が従来とはかなり違うので中々ピンと来ません。

たとえば、チャットしか知らない人は、Wiki にも Q&A にも Issues にもピンと来づらいのではないでしょうか。


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4つの指向性について、マトリックスで俯瞰しました。


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