ピアス。
右耳にひとつだけ、ピアスを開けた。
どうか、これからの人生で、
わたしがわたしらしく生きられますように。
他人の意見に左右されず、
わたしを見失いませんように。
大学1年生、付き合ってた人にピアスは開けないで欲しいと言われていた。
素直に聞き入れ、別れた後もなんとなくピアスを開けることなく今日まで生きてきた。
大学2年生、サークルの代表をこなすのに精一杯だった。
より良いサークルにするため、私生活を投げ打って、毎日学校が閉まるまで部室にいた。
大学3年生、付き合ってた人とはなかなか会えなかった。
自分の気持ちを押し殺し、相手の都合に合わせていた。
大学4年生、会えなかった元恋人が二股をしてたことを知った。
それでも、相手を傷つけると思うと突き放すことができず、LINEすら無視できなかった。
これ以上、わたしはわたしを犠牲にしたくなかった。
これ以上、わたしが悲しむのをわたしは見ていられなかった。
他人を思いやり、目の前の人間の心の機微を推し量り、傷つけるような言動は徹底的に避ける。
それはわたしの一番の長所だと思う。
長所だと思うけれど、大人になればなるほど、自分がすり減っていってる事実を、突きつけられるようになった。
誰かを傷つけないために、
自分が傷いた。
相手の不快を取り除くために、
自分の快を捨てた。
わたしが望んでいることを、
わたし自身が潰していた。
もう、わたしはわたしを殺したくなかった。
わたしを幸せにできるのは、
わたししかいないと気づいた。
ピアスをどこで開けるか、調べに調べた。
「ピアス、開けてもいい…?」
お母さんに確認をとった。
片道1時間かけて着いたその場所。
着いてから出るまで、15分しかかからなかった。
さらに、ピアスを開けるのには5分も使ってない。
わたしが悩みに悩んでやっとの思いで、
ここまでたどり着いたのに、
ピアスホールは流れ作業のように、
3秒であいてしまって。
一瞬の出来事に、
どきどきしていたはずなのに、
それがなんだかすごく悲しいような、
そんな気持ちになってしまった。
バスに乗る。
地下鉄に乗り継いで、
さらに地下鉄を乗り継いで、
また1時間かけて帰る。
今日はわたしの決意をかたちにした日。
今日までの感情を、
忘れてしまわないように。
揺らいでしまっても、
すぐに思い出せるように。
これからの人生は、
わたしはわたしらしく生きていこうと。
他人の意見に左右されず、
わたしを見失わないようにと。
これはわたしの道標。
今日。2020年1月23日。
右耳にひとつだけ、ピアスを開けた。
秋。