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地域材で椅子をつくるということ


安藤忠雄さんの「こども本の森 神戸」の椅子を地域材でつくりました。

僕は、海外の輸入建材の商社から2013年に独立し、地域資源としての木材をものづくりを通して活用し、地域の経済の中で循環するような木材流通の仕組みを作ろうと、様々な活動をしてきました。

事業所を構える神戸には六甲山という山系があり、全国的にも知られている山ではありますが、林業としての位置づけは過去の歴史にはなく、元々防災上の観点で明治後半に広葉樹を中心に植林された樹々で覆われています。そんな六甲山も明治の植林から100年以上が経過し、樹木は大径木化してしまい伐採整備していかないと山が崩れていく危険性が押し寄せています。この課題を解決するために平成24年(2012年)に六甲山森林整備戦略を計画し六甲山の再整備が行われ始めました。たくさんの樹木を伐採していく計画の中で、それらの発生材を処分するのではなく、材として活かしながら整備していくという計画に僕たちがお手伝いをして、早、まる10年が経とうとしています。

近年のSDGsの取組みやサステナブルといったキーワードを各所で耳するようにはなってきて、私どもの仕事や活動について関心を持ってくれる人が増え始めているのはとても嬉しいことです。ただこのような取組みはすぐに結果が出るようなものではありませんし、結果がでたからといってすぐに撤退(売り逃げ)できるような(して良いような)事業ではありません。本当に続けることの大切さを痛感しています。


元々家業を引き継いだわけでもありませんので、工房や倉庫、トラックや重機、工具や在庫に至るまで全てゼロからコツコツ揃えてきました。やればやるほどお金もかかるし、求められるものも増えてきますし、これからの山のことを考えたりすることやりたいこと、やらなければならないこともどんどん増えてきます。

この10年で色々な種類の地域材(街路樹を含めて)をレスキューし、その特性や状態を生かしながら色々なものを作ってきました。六甲山鉛筆という本当に小さな商品から丸太一本をそのまま商業施設や飲食店に納めたり、家具や床材等の内装材はもちろん、生木や枝や葉っぱや木の根っこに至るまで思い当たる活用方法はなんでもチャレンジしてきました。

建築用材として適してる針葉樹(人工林)は比較的加工性も良く、ある程度地域循環の仕組みを作っていけることは神戸でも出来つつあります。問題は里山によくあるような広葉樹(天然林)の場合です。広葉樹林はこの辺りでは雑木林とも言われ、樹種や樹齢も多様で針葉樹のようにまっすぐ生えてる樹木は少なく、伐採や搬出、製材加工するのにも効率が悪く経済林としては見捨てられてきました。

今、ある程度の仕組み作りを整えてきた中で、次の10年~20年は、このような小さな里山の広葉樹林をどのように生かしていくかを考えていきたいと準備を始めています。僕たちの仕事は、供給側(山側)と需要側(流通側)が一方に傾いていたり双方が分断されていると完全に成り立たないということが10年の取組みで本当にわかりました。

広葉樹林の広葉樹をなんとか山から出そうとしてもそれを使ってくれる現場や仕事がないと成り立たないのです。そんな中、僕たちは「コナラ」などの里山広葉樹を家具に使えるようにならないかと取り組んでいます。

ご承知の通り、コロナ渦によって世界的なパンデミックを経験し、さらに世界的な政治情勢からグローバルサプライチェーンが崩れつつあります。日本の木材産業は、国内に70%近くもの森林率を持ちながらも海外需要に大きく依存している傾向にあります。特に家具などに使用される「ハードウッド」いわゆる広葉樹は、国産の市場はほとんど無いといっても過言ではないかと思います。

海外の広葉樹の木材生産量に比べれば、それを補填するだけのポテンシャルが日本にあると思えないのも現実です。でも、僕たちが真に意味し、やろうとしていることは、決して大量生産大量消費ではありません。今後、消費を促しながら経済を右肩上がりに維持し続けることの不確実さをどれだけ思い知らされたでしょうか。それを可能にするのは、一旦破壊するしかないのです。つまり戦争などによって一度全てをリセットする他、この市場経済の維持性は保たれないことをみんな知っています。欧州ではまさにそれが今行われていようとしています。世界規模のチームで。

話が逸れましたが、大量生産するには値しない小さな里山ベースの「資源」を、その地域資源として地域経済の中で循環させる仕組みであれば、それは機能すると考えています。そしてそれには、使い手側いわゆる需要側との連携が必要なのです。僕たちは数年前から、兵庫県神戸市にある竹中大工道具館を会場にして開催される「樹の一脚展」という椅子の個展を主催する家具作家メンバーとお付き合いさせていただき、六甲山材の広葉樹を家具に使うチャレンジをしていただいています。

家具の中でも特に椅子となるとその強度が求められ、品質においても良質な広葉樹が求められます。里山に存在する広葉樹は、用材として育てられたわけではないので、その面において劣る部分(ねじれやひび割れその他の乾燥の問題等)が多く、率先して国産のましてや地域の里山の広葉樹と使おうという作家はほとんどいませんでした。ただ近年において、海外でも良質な木材が不足しつつあったり、僕たちの行動に共感していただく作家さんも増えつつある中で、地域材で椅子を作るということチャレンジしていただき、僕たちもそれに呼応する形でできる限りその努力をしようと試みています。

その折、神戸市に「こども本の森 神戸」という図書館ができるという話を耳にしました。建築家の安藤忠雄さんが神戸市に全面寄付しできた図書館です。様々な公共建築において内装材等を納めてきましたが図書館の椅子というのはまだやったことがなかったのでこれはチャンスと思いなかば無理やり神戸市さんに営業をかけました。当初は、既製品の椅子を購入するという予定だったところを神戸市産の木材でなんとかできないかと掛け合い、設計の安藤事務所様にもご協力をいただき実現することができたのが「こども本の森 神戸」の椅子です。制作についても、シェアウッズの中で全て制作担当するのではなく、普段ご協力いただいている「樹の一脚展」のメンバーに声をかけさせていただき、そのうちの有志3名にそれぞれの椅子作ってもらいました。

岡田光司さんには、街路樹のケヤキを使った椅子やスツール。
村上剛さんには、神戸市の里山のコナラを使った椅子。
岡田敦さんには、六甲山のヤシャブシや神戸市の里山のコナラを使った椅子やベンチ。

それぞれの特徴のある、かつ建築に溶け込んだ素晴らしい作品を作っていただきました。
これが単に一発屋の企画ものではなくて、地域の広葉樹が椅子に使えるということを知ってもらうための出発点として僕たちはもっと努力していかなくてはならないし、ものを作るということとその資源はどこからきていて誰の手に渡るのかの道筋を見える化していきたいと思っています。

できる限りずっと。


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