
姿勢について
ウィンタージュニアが年齢別に始まり、それぞれに結果報告があるが、いい報告ばかりでないのが現実だ。結果報告とともにあるジュニアのお父様から相談された。
「結果は二回戦敗退でした。一回戦も勝ったものの内容はミスだらけで、観戦していた母親は、テニスを続ける意味ないやんと怒っていたみたいです」
続けて
「取り組み方に問題があるようで、自宅ではストレッチやトレーニングはおろかスマホのゲームばかりで、取り上げてしまおうかとも考えたのですが、みんなもやってるからと言うことをきかないんですよ」
子供の長時間スマホについては社会問題みたいなもんで、スマホが子供の脳にどんな影響があるかなんて私にはわからない。ただテニスコーチとして気になるのが、スマホの害悪ではなく、勉強も含めた『動きの少なさ』である。
私にも同じ中学生の息子がいるが、スマホというよりは、長時間同じ姿勢でスマホをみないよう口酸っぱく注意している。机に向かって勉強する行為は良いとされるが、ずっと座って机に向かう行為は、体の動きとしては悪になる。私自身も先月に人生初のぎっくり腰をやり、その対策としてメインに取り組んでいるのが長時間同じ姿勢による『動きの少なさ』にならないようにしている。具体的には15分から30分以内で姿勢を変えるように工夫している。例えばこの記事を書く場合、シナリオや挿絵のような、何かを書く行為は椅子に座って机で書き、パソコンに入力するようなことはキッチンのカウンターテーブルで立って打ち込んでいる。

本格的なトレーニングやストレッチ、専門的な動きはもちろん大切ではあるが、その基になるのは人間本来の動きである。朝起きて体を起こす、そして体を伸ばす、歯ブラシをするという行為も動きである。服を着替えるというのも意外に大きな全身運動である。とくに私はぎっくり腰をやったので、靴下を履く行為が大変で時間がかかった。このように正常な身体であれば当たり前のことが、怪我などで動きが制限されると、いかに体の動きが大切なことか実感できる。
このような日常的な動きで『動きの少なさ』は21世紀に入っての社会問題の一つである。AIによって仕事を奪われることより、日常的に動くことがどんどん少なることの方が深刻な問題であると思っている。そして、これが私たち大人だけでなく子供にも影響が及び深刻な問題となっていると感じる。本業のレッスンをして感じるのがコロナ問題以降、ジュニアで当たり前の動きが当たり前にできない子が増え始めている。赤ん坊で生まれ、首が据わり、寝返りをして、ハイハイをするから始まり成長とともに、その年齢で獲得しておかないといけない動きが発育発達論の観点からある。しかしコロナによる外出禁止などで、獲得すべき動きを獲得しないままに時が流れてしまったのであろうと推測している。
私でこれらの社会問題を解決することはできないし、インターネットやAIなどの技術発達で良くなった部分もたくさんある。そんな社会と上手く付き合っていくことが大切なので、早速ジュニアチームの父母LINEに『姿勢について』というコラムを書くことにした。専門家ではないが父母の方々にも、ただ姿勢がいいとか悪いとかではなく、少し深く掘り下げて書いてみた。
テニスというスポーツはラケットを使ってスウィングをします。バットでスィングする野球やクラブをスウィングするゴルフのように、スィングするという動作が主になる運動に『回旋』という動きがあります。指導上でよくコーチが使う「ターン」というやつです。この動きに深い関わりがあるのが背骨(脊柱)と腰(股関節)です。スィング系の動きで体が回旋するということには大きく2つの回旋があると考えてください。脊柱の胸の高さに位置する胸椎の回旋と骨盤の回旋です。この2つの動きの見極め方として、肩の高低差をみる方法があります。胸椎の回旋は回旋方向側の肩がやや下がります。一方で骨盤の回旋では回旋方向と反対側の肩が下がります。私はテニス指導でよく使われる「ショルダーターン」というものをあまり使いません。肩の動きについてはターンより高低差の指摘(水平、傾き)が多くなるのは、この2つの回旋について、どちらの回旋を主に使うかを分類するためです。
では、なぜ同じ回線でも胸椎の回旋と骨盤の回旋で動きが違うのでしょうか。
この違いを理解するには、少し専門的ではありますが背骨(脊柱)の動きを大まかでいいので理解する必要があります。脊柱は体の上から頸椎、胸椎、腰椎の3つに分類されます。

背骨とは椎骨という小さな骨の重なりで構成されています。まず重要なこととして、この椎骨の形と水平面に対しての角度が頸椎、胸椎、腰椎によってだけでなく24個の椎骨全て少しづつ違うということを理解してください。
つづいては、この椎骨と椎骨の動き、いわゆる関節の動きを理解してみましょう。
まず、背骨の動きで誤った動きをイメージされていることがあります。

椎骨と椎骨の間で、回旋ですからペットボトルのキャップを回すのと同じような動きで回るということです。確かに椎骨と椎骨の間のことを椎間板といい、これは関節の一つではあるのですが、動きというよりは重さのクッション的な役割として主に上下しか動きません。

背骨の動きは回旋だけでなく、前に倒れるような屈曲、後ろに反らす背屈、横に傾く側屈とありますが、これらの動きは椎間板ではなく椎間関節というものの動きです。

これら椎骨と椎骨の間にある椎間関節の動きが、体全体の回旋動作と深い関わりがあるのですが、それぞれの椎間関節の動きはとても小さく、動きというよりは「少しズレる」くらいのイメージです。ただ、少しづつのずれが頚椎で7個、胸椎で12個、腰椎で5個あるため全体として動きがある程度の動きとして発生します。背骨の動きが椎間関節の動きによる集合体であるとイメージできたら、その動く角度に注目してみましょう。ペットボトルのキャップを回すような動きではなく、椎間関節面の角度に沿ってズレるような動きになるため、実際には次のような動きになります。

実際は上図の紫→ほど大きくは動きませんが、あくまでイメージです。とくに腰椎は左右に→が書かれていますが、ほぼ動きません。また、頸椎と胸椎の椎間関節は少し回旋しますが、その角度が椎骨一つ一つ違いがあります。

実際の回旋時のイメージは次のようになります。まずは胸椎の回旋です。

つづいて骨盤の回旋です。

以上がスィング系の動きでよく使われる回旋動作についての説明になります。理解というよりイメージだけでもしていただくことが重要な理由は、背骨のS字カーブです。これが長時間同じ姿勢でいることで崩れてしまう、または固まってしまうことの警鐘です。説明のわかりやすくするために頚椎の動きは書いていませんが、聞いたこともあるかとは思いますが「ストレートネック」なども、この背骨とその関節の動きから理解ができるかと思います。そして背骨の動きがいつもS字カーブに対して忠実で滑らかであれば、動きのパフォーマンス、身体から脳、脳から体への指令伝達、また、交感神経、副交感神経のバランスと、優れた心技体に深い関わりがあります。姿勢をよくするとは、ただ背筋を真っ直ぐにして胸を張ることではありません。背骨のS字カーブが崩れている人が背筋を真っ直ぐにすると余計怪我につながってしまいます。良い姿勢とは、背骨のS字カーブに沿った関節の動きを、重さの方向とともに滑らかに使えることを指します。この良い姿勢のために日常でできる具体的な対策をいくつか挙げておきます。
①15分から30分以上同じ姿勢を継続しない
②エレベータを階段で、車ではなく自転車でなど、動く量を増やせる工夫
③公園でなくても、家の周りを少しだけ散歩など一日中家にいることを避ける
④左手で歯ブラシしたり、普段とは違う行動で遊ぶ
⑤ストレッチ
お子様の期末テスト期間真っ只中ではありますが、健全な文武両道のお手伝いがテニスを通してできればと思っております。
あるお父様からの相談が書くきっかけになったコラムではあるが、テニスにおける『ボールも見方』にも、この背骨(脊柱)の動きはとても重要である。「前をみる」概念からの捉え方としてまず行う『目と腰のセッティング』については、本記事では取り上げていない頚椎の動きが深く関わる。いわゆる首の動きというのは見方にとって重要だ。グリップだ、スタンスだ、回転だ、スピードだ、パワーだ…ではなく、テニスが上手い人たちにはどこか共通した腰と首の使い方がある。

この美しく、正しいボールの捉え方は今とか昔とかいう考え方はない。なぜなら人間としての動きや骨格が変わったわけではないからだ。むしろ道具で今よりも劣る昔の人たちの方が『ボールの見方』においては優れているのではないかとも思っている。
年齢とともに、世の中の技術発達とともに、人間が持つ堕落ととともに増えていく『動きの少なさ』に反省しつつ、まずは自分の生活習慣を見直す毎日である。
おわり