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韓国国立古宮博物館所蔵の錦光山作品:Kinkozan in Natoinal Palace Museum of Korea


七代錦光山宗兵衛(Kinkozan Sobei)作 白磁色絵花文瓶 韓国国立古宮博物館蔵

 前回「瀬戸市美術館『講演会』顛末記」でご報告しましたように、講演会会場で大阪市立東洋陶磁美術館の学芸課主任学芸員の鄭銀珍氏と名刺交換した際に、鄭氏が「韓国国立古宮博物館に錦光山の作品があります」と教えてくださり、わたしが韓国に古宮博物館があるとは知らず、驚いて「そうですか、是非見たいものです」と言うと、鄭氏が「画像を送ります」とおしゃってくれて送ってくれたのです。それはわたしにとって、思いもよらぬ素晴らしいプレゼントとなりました。

 韓国古宮博物館は、2005年に「徳寿宮美術館」から名称変更されたようで、李王朝の遺物の収集・所蔵・展示を行い、李王室文化の紹介をしている博物館のようです。それにしても韓国古宮博物館にこれほど素晴らしい錦光山作品が収蔵されているのは思いもよらず、これらの作品を見たときには、その華麗な美しさに思わず息を飲み、感激のあまり涙がこぼれそうになりました。多治見の陶器師を名乗る髙木典利先生も「韓国古宮博物館にある錦光山は良いものばっかりで、こんなに素晴らしいものが収蔵されているとは知らなかった」とおしゃっておられました。それほど逸品がそろっているのです。

 一つひとつ画像を見て行きましょう。

まず、冒頭の写真にある「白磁色絵花文瓶」です。この作品は高さ79.8cm、口径20.2cmとかなり大振りな花瓶です。白磁に描かれているのは葉鶏頭でしょうか、茜色や紺、淡い緑や濃い草色などで描かれています。よく見ると淡い水色で木槿(むくげ)のような花や淡い紅の縁の花やピンク色の可憐な花が描かれています。これらは浮彫となっているようで、平面的に描かれてるのとは違って、どこか浮き立つような立体性を感じさせます。さらには、その濃淡が白磁の白さのなかで際立っていて、けれんみがなく、どこか胸のすくような、なんとも言えない気品を醸し出しているといえましょう。錦光山宗兵衛が、かくも美しい白磁を製作していたとは驚くばかりです。

 次に下の画像にある「白磁色絵花文瓶」です。この作品も高さ76.3cm、口径28.2cmとかなり大振りな花瓶です。白磁には白い牡丹と白菊、黄色の菊が描かれています。牡丹や菊の花に紐のようなものが描かれていますが、蔓でしょうか、それとも金継ぎでしょうか。もし金継ぎであれば、ひび割れていたものを修復したことになります。いずれにしても、安定感のある白磁で葉の濃淡や描き方に凛としたものがあり、どこかすがすがしさを感じさせます。

七代錦光山宗兵衛(Kinkozan Sobei)白磁色絵花文瓶 韓国国立古宮博物館蔵


 三つ目は下の画像の「白磁色絵花鳥文瓶」です。この作品は高さ60.6cm、口径15.4cmで先の二つほどではありませんが、大振りな花瓶と言えましょう。それにしても、なんと見事な作品でしょうか。林のなかを歩を進める雌雄の雉が描かれていますが、雉の絵や下草の花々の描写もさることながら、白樺のようにすっくと立った山桜が、朝靄とひかりの加減で微妙にかすれていて、幻想的な雰囲気を醸し出しています。まるで、緻密で華麗な、一幅の絵画を見ているようです。よくぞ、これだけ素晴らしい錦光山の作品を韓国国立故宮博物館が所蔵してくれていたものだと感心いたしますとともに感謝の念が湧いてきます。

七代錦光山宗兵衛(Kinkozan Sobei)白磁色絵花鳥文瓶 韓国国立古宮博物館蔵

 最後の作品は下の画像の「白磁色絵山水鳥文花瓶」です。この作品は高さ44cm、口径15cmとあまり大振りな花瓶とは言えません。鼻のうえにコブがあるコブ白鳥が描かれていて、植物も桜や牡丹、菊、葉鶏頭などが幻想的な雰囲気を漂わせて描かれています。描写力は決して悪くはないのですが、惜しむらくは、春の桜とともに秋の菊などが描かれていて、季節性が希薄なことです。おそらく、西洋人向けの輸出向けということが強く意識されて、このような図柄になったのでしょう。季節性を大事にする日本人の目から見るとなんとなく違和感を感じるのはそのためではないかと思われます。

七代錦光山宗兵衛(Kinkozan Sobei)白磁色絵山水鳥文花瓶 韓国国立古宮博物館蔵

 下記にありますように、韓国国立古宮博物館所蔵の「錦光山」銘作品リストには、もう一つ「白磁色絵雁文瓶」があるようなのですが、残念ながら画像はありません。

 韓国の陶磁器といえば、初代諏方蘇山が明治40年に錦光山製陶所から独立して七年後の大正3年に朝鮮李王職より高麗古窯跡取り調べを嘱託され、高麗窯再興に取り組み、翌大正4年に昌徳宮苑内鷹峯に窯を完成させました。そうした功績もあって、初代諏方蘇山は大正6年に当時の人間国宝である帝室技芸員に選ばれたという、初代諏方蘇山の縁の地でもあります。そうした歴史に思いを馳せますと、日韓の陶磁器の交流がどのようなものであったのか、興味が湧いてきます。いずれにいたしましても、韓国国立古宮博物館に錦光山の逸品ともいえる作品が所蔵されていることがわかったことは有難いことであり、機会があれば是非現地を訪れて実物を拝見したいと思います。


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