皆宇宙に行くようになる かつての海外旅行のように
元ZOZOの前澤氏が宇宙に行った。民間人宇宙飛行士としてのISS滞在は日本人初で、世界でも10番目の快挙らしい。
前澤氏は数年前から事あるごとに「宇宙へ行く」と公言していた。起業家の一部はビックマウスを売りにしているところがあるので、「本当かなあ」程度に思っていたら、いつの間にか達成していた。素直にすごいと思うし、有言実行に対する敬意もある。
多くの報道では、民間人が宇宙へ行くことの難しさ、費用が膨大にかかることなどを取り上げている。しかしながら、私はいずれ、と言ってもこれからの2~30年で、民間人も多く宇宙旅行に行くようになるだろうと考えている。
とてつもない根拠があるわけではないのだが、この数十年間で海外旅行がまさにそうなったと考えるからだ。
私が20代で学生から新社会人になる頃、50代のジェントルメンからは「社会人になったら海外旅行になんて、行けなくなるよ。学生のうちに行っといた方がいい」と言われていた。私は素直に、「そうか、社会というのは厳しいところなんだ、うんうん」と忠告を噛みしめていた。そうして、大学卒業間際に、私はタイと、インドに行った。
しかしながら、いざ社会人1年目となると、それなりに夏季休暇なんかも取得できるようだった。ざっと10年ほど前で、今ほど働き方改革は叫ばれていなかったが、外資系企業であり、上司も「残業はしないように、有給も取っていこう」という方針の方だったので、周りの日系企業1年目の友人とは雰囲気が違ったのかも知れない。私は1年目の夏、5泊6日で香港に行った。
それからというもの、年々「休みの取りやすさ」は増していった。うまく調整し、GWやお盆、年末年始とくっつければ、7~10日間の休みも取れるようになった。私は「社会人になったら海外旅行なんて行けなくなるよ」を盲信し、休みが取れれば「もう機会は無いかも知れないんだ…!!」と考え、海外旅行に行った。そんなにリッチでは無かったので、東南アジア、東アジアがメインだったが、20代の若者にはマッチしていて、大変有意義な時間を過ごすことが出来た。台湾、上海、ベトナム、フィリピン、イタリア…etc,etc.
そうして私は気が付いた。「社会人になったら海外旅行なんて行けなくなるよ」というのは、嘘だったんじゃないか?ということに。
考察するうちに私は気が付いた。50代(当時/2021年では60代)のジェントルメンは嘘をついたのではなく、自分の実体験から忠告してくれたのだ。彼が若い頃は、「社会人になったら海外旅行なんて行けない」時代だったのだろう。
これにはいくつかの理由がある。
まず、働き方の変容だ。
私が社会人となったのは、2011年。この頃はまだ、そうはいっても「若手は休みにくい」「そんなに連続して有給をとるもんじゃない」といった雰囲気があった。それでも外資系企業だったこともあり、有給や定時上がりは比較的しやすい方だったと思う。また、私がそういう点では周りに気を遣わず主張する性格、というのもある。
明確に変わったのは、2015年。大変痛ましい事件で、もう2度と起こって欲しくはないものだが、大手広告代理店の若手社員が過労自殺してしまった。マスコミも大々的に報じたこともあり、この頃から、社会や会社の上層部の「若者に対する考え方」が変わったと思う。「若い人に無理させて働かせてはいけない」「不必要にプレッシャーを与えてはいけない」「自分たちの世代では当たり前の価値観でも、受け取る側には苦痛かもしれない」といった配慮がみられるようになった。こういう痛ましい事件がきっかけとなってしまったことは大変残念ではあるが、日本の、特に若者の働き方改革は劇的に進んだと言える。
それからというもの、カレンダーの問題もあるが、GWやお盆、年末年始がうまく土日と隣接している年が重なり、有給を使えば、年に2,3回は、10連休くらいなら取れるようになった。同級生と集まっても、「なんかここ数年、5年くらい、すごく休みが多くなった感じしない?」と話題になったこともある。これは30代になって仕事のコントロールがしやすいようになった、という効果もあるかも知れない。
このように、まず、ジェントルメンの時代とは働き方が違う。
次に、情報である。
2010年頃、私が初めて一人でバックパックの旅行をしたところは、まだスマートフォンの普及はいまいちだった。一部のガジェット好きの若者が持っている、といった印象で、大学生の多くはガラケーだった。安宿のゲストハウスでWi-fiの案内があり、「Wi-fiってなんだろう」と思ったのをよく覚えている。私は友人の中でもITというかパソコンに詳しい方だったが、当時はまだデスクトップが主流だった。YouTubeの画質は荒く違法動画が散乱していて、日本人の多くはまだFacebookをやっていない時代だった。安宿のゲストハウスも、地球の歩き方や、日本で印刷したウェブサイトの情報を頼りに、歩いて訪問し、「今日部屋は空いてるか、いくらで泊まれるか」と交渉した(今思えばこの方法の方が楽しめる気がする)
そこからの10年間で、人々の情報に対する感度は飛躍的に向上した。飛行機の価格比較から予約、宿の手配まで、旅行出発前にすべてスマートフォンで済ませられるようになった(今となっては感覚的には当たり前だけど)
現地に着いても、オンラインで地図を確認しながら歩けるし、英語が話せなければ、簡単な翻訳ツールで旅行ぐらいならどうとでもなってしまう。
このように、ジェントルメンの時代とは情報が違う。出国前に書籍や伝聞で得た情報に加え、現地で人々に聞いた情報をもとに旅行していた時代とは、雲泥の差である。
最後に、価格だ。
かつて飛行機に乗るということは、贅沢なことだった。金銭的に余裕のある人か、あるいは仕事の移動手段で飛行機を使う、こちらも限られた人種の話だった。
しかしながら、航空規制緩和によりLCCが台頭し、高価格だった飛行機のチケット、特に海外、遠方への移動が格段に安くなった。少し時間がかかっても、乗り継ぎなどを含めれば半額近い価格帯も登場した。
さらに、ダイナミックプライシングの導入もある。これは、簡単に言えば、シーズンや日にちによって同じ経路・同じ席でも価格が違いますよ、という仕組みだ。今や航空券やホテルの予約では当たり前となっているが、かつては違った(ハイシーズン、平日・土日くらいの差はあったかも知れないけど、今みたいにカレンダー上に価格が出て日によって少しずつ違う、というものではなかったはず) ちなみに前述の通り航空券やホテルでは多く導入されているが、新幹線は基本的にいつでも一律の料金のままだ。
ジェントルメンの時代とは、価格が違う。この側面は、情報や時間、休日の取り方とミックスされている部分があるかもしれない。
つまり、整理すると、
「昔は、社会人になったらなかなかまとまった休みなんて取れないし、金額もべらぼうに高いし、情報もないから日本人は安全なホテルに泊まることが多く、やはり高い。そう考えると、お金は別として時間と若さの勢いを捻出できる、学生のうちに海外旅行にいったほうがいいよ」
という忠告だったのだろうと理解できる。
このようにして、海外旅行というものは、長くみてこの50年くらいでその在り方が大きく変わったといえよう。宇宙旅行も、同様だ。今、民間人がお金を払えば行けるところまで来ている。かつては、お金持ちの象徴として、おそ松くんに出てくるイヤミが、「おフランス帰りザンス」と言っていた。
現在では、若者でもちょっと頑張って、工夫すればフランスには行けるようになった。時が経ち技術が発展すれば、お宇宙帰りザンスもそんなに遠くはないだろう。
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