音楽と呼吸
音楽は呼吸だ。まず息を吸わないと音は吐き出せない。
だけど、教えている美大のゼミで、未経験の演奏希望者を集めてとりあえずセッションしてみると、みんな息を吸わないまま突然に音を出そうとするのだ。
っていうか、周りがまだザワザワしてガタガタ動いたりしてるのにブーとかボーンとか演奏を始めていたりする。
なので、まずは場がシーンとなるまで待って、「よろしければ」と間を置いて、息を吸って、それから最初の音を出す……という所作を大切にしている。
その後に発せられる音そのものよりも、その所作や呼吸こそが、日常の時間をいったん区切って「音楽」を出現させる魔法だと思っているからだ。
たとえば、音を鳴らさないことで知られるジョン・ケージの『4分33秒』が、なぜ「音楽」と言われるのか。それは、この「曲」には開始と終了という「フレーム」があるからだ(ご丁寧に楽章の区切りまで指定して)。
時間の中にフレームさえ区切れば、いつだって音楽は始まることを、この作品は教えてくれる。
美大生の多くは、作品を無意識にスタティック(静的)なものととらえがちだ。時間の中で構成したり、自ら演じることに慣れていない場合が多い。映像やアニメのような「時間芸術」を志向する人でさえも。
だからこそ美大で、呼吸や時間といった「音楽の本質」を伝える事には意義がある。そう思いながら、演習を続けている。
(2021.6.9)
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