【毎週ショートショートnote】穴の中の君に贈る
「34番、時間だ」
消灯後、ベッドの下から声が。床下の穴から25番が顔をだす。
『私はやめとく』
「自由になりたくないの?」
25番の計画決行日。
看守の目を欺き、物資を集め、穴を掘り、脱出経路を確保した。警備の甘い今日しかない。
『君は無実だが、私は』
34番はある夜の出来事を思いだした。
いつもは侵入した家から、すぐ立ち去るのに、その日は靴下が気になった。
美しいほど真ん丸の穴が空いた靴下。
34番はその穴に自分を見て、自首した。
「勝手にしろ」
34番は餞別にホイッスルを渡した。
『困った時は吹いてくれ』
やがて、刑務所内に警報が鳴る。サーチライトの光に銃声。
そして、ホイッスルの音。
『やれやれ』
34番は指を鳴らし、赤い服になり、髭をはやした。壁を壊し、迎えの橇に乗り込むと空を飛んだ。
『脱獄をプレゼントするのは初めてだな』
25番を乗せ、夜空に空いた月穴を越え、聖夜に鈴の音が鳴った。
(400字)
【副題】アナホーリーナイト
この企画に参加するようになってから、最もギリギリ(というかアウト)となりましたが、今週も参加させていただきました!いつもありがとうございます!
今週のお題はなんとなく考えやすいかもと、油断している間に前日となってしまい、いざ考えだしたら、『穴』の方向性と着地が見つからず……。
結果、自分の好きな『脱獄もの』と季節柄的な『クリスマス』を合わせたお話となりました(この文章を書きながらチラ見したら、次のお題が『クリスマス』でした!)。
囚人番号の34番は、クリスマス映画『34丁目の奇蹟』から(素敵な映画)。
どうか楽しんで読んでいただけますように!
最近はといえば、隙間時間やウォーキング中に、ちょこちょこショートショート作家の田丸雅智さんがMCを務めますラジオクラウド『コトバノまほう』を聴いたりしています。
ことばの奥深さや、可能性、面白さなどなど、ゲストの方と繰り広げられるトークから学ぶところが本当にたくさんあって、文章を書かれる方にはおすすめのラジオだと思ったのでご紹介を(最近は詩人の谷川俊太郎さんもゲストに!)
今年も残り一ヶ月を切りましたが、体調に気をつけながら、これからも楽しくことばを紡いでいこうと思います!