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Life Cinematic-シンドバッド7回目の航海-
年末、知人から久しぶりにメールが来たと思ったら、「映画制作会社を作った人と飲むから来ない?」とのお誘い。
「映画制作会社に勤める人」ではなく、「映画制作会社を作った人」らしい。
しかも以前は銀行員だそうな。
「もちろん行きます!」ということで、珍しく仕事を早く切り上げて恵比寿へ向かった。
でもそもそも、今回誘ってくれた人は、私の映画好きをどこで知ったんだろう?
そんな話したことあったかな?
・・・と思ったら、このブログだった。
一度もコメントをくれたことがないので知らなかったのだけれど、もう何ヶ月も、彼はこのブログを読んでいたらしい。
なんだか恥ずかしいけれど、それでつながる出会いがあるなら、それも悪くない。
私が到着したとき、男性2名はもう一通り食事も終わって、いい感じでお酒も入っていた。
「はじめまして」と言って軽く紹介にあずかり、さっきから続いていたらしい映画談義が再び始まった。
最近観た映画、好きな映画、これはちょっとという映画。
そして、超マニアックなスター・ウォーズの話。
細かい解釈がめちゃくちゃ通で面白い。
私もスター・ウォーズは大好きだけど、話を聞いているとだいぶ内容を忘れていて、思わず、「見直さなくちゃ」という気持ちになった。
その日知り合ったTさんは、当然ながら映画が大好き。
映画が好きで好きで、銀行マンを辞めて映画配給会社に転職した。
その仕事の中で、彼が書いた脚本の映画化が決まった。
彼の映画を作るため、集まってきた数々のスタッフ。
でも、いろんなしがらみの中、一度決まったその話が頓挫してしまう。
Tさんを信じてきたスタッフは、「どうするんだ」と彼に詰めよる。
そして、彼は決める。
映画が好きだ。だから、映画制作会社を作ろう。
集まったスタッフと一緒に、彼は男気で一気に独立を果たしてしまう。
まるで、彼自身が映画みたいに、かっこいい。
その上、彼の語り口は、どんなことも劇的に感じさせる、心地よい抑揚だ。
「何かきっかけになるような映画があったんですか?」
私が尋ねると、おうともよ、といった江戸っ子調子(彼は神奈川出身と言ってた気がするけど)に膝を打ち、彼の話は始まった。
「小学校4年のときにね」
うんうん、と引き込まれるように私たちはうなづく。
「シンドバッドの冒険ってあるでしょ。あれがすっごく好きでね。
頭ん中、その映画のことでいっぱいなわけですよ。学校行くときも、ずっと」
ああ、知ってる。シンドバッドの冒険。
アラビアンナイトの本でいっぱい読んだし、昔、日曜の昼間とかに時々テレビで映画を放映しているのを観た。
血湧き、肉躍るという言葉がぴったりなファンタジー冒険活劇。
私も大好きだったな。
「俺はさ、シンドバッドの冒険が好きで、毎日、冒険グッズを持ち歩いてたの。
ロープとナイフと。いや、何に使うってわけでもないんだけどね。
なんか、それで冒険する気持ちになってたの。
なんか起きたときに、とかさ。まあ、気分ですよ。分かるでしょ?」
あはは、分かる、分かる。
私も小さいとき、自分が魔法使って変身できるって信じようとしてたなあ。ミンキーモモみたいに。
「でもね、学校で持ち物検査っていうのがあって、毎週月曜にカバンの中、先生が見るわけ。
もちろん、その日にはもっていかないんだけど、たまたま忘れちゃった日があったんですよ。
そいで、先生が順番にカバンの中見てくの。
俺のカバン開けたらさ・・・」
思わずニヤニヤしてしまう。
「ロープとか、ナイフとか、出てくるわけよ。
『おーまえ、なーにをもってきとるんだ?』って。
先生もびっくりするよね」
その先生の口調がまたおかしくって、私は楽しくてしょうがなかった。
「『いや、あの・・・その・・・冒険を・・・』って、俺はめちゃくちゃ焦りながらしどろもどろでさあ」
あははははは。
Tさん、その頃のまんま大人になったんだろうなあ。
いたずらっぽい今の表情に、冒険に心馳せた少年の面影がかぶる。
やんちゃでかわいらしく、利口で瞳を輝かせた男の子だっただろう。
そして今、彼は映画を作る人になっている。
彼は冒険するように生きていて、その冒険はますます険しい山、荒れ狂う海、未知の野に、秘められた郷に突き進んでいくだろう。
人生があるから映画が生まれ、その映画が人生を彩る。
映画と日常と、人生と冒険。
それは、眩しくて楽しい夜だった。
シンドバッド7回目の航海 The Seventh Vovage of Sindbad(1958年・米)
監督:ネイザン・ジュラン
出演:カーウィン・マシューズ、キャスリン・グラント、トリン・サッチャー他
■2005/1/31投稿の記事
昔のブログの記事を少しずつお引越ししていきます。
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