先日素晴らしいお酒を飲みました。今年飲んだサワーエールの中で暫定1位ではないかと思います。アメリカ・オレゴン州のCascade Brewing(カスケードブルーイング)のBlackberry 2015です。滅多にないことですが、久しぶりにケース買いしたくなりました。
カスケードブルーイングにはポートランドに行った時ブルワリー併設のタップルームにも行きましたが、非常に印象に残っているブルワリーの1つです。アメリカのモダンなサワーエールの文脈において最重要ポジションの1つを占めるであろうということは間違いないと思います。
ここのサワーエールは概して超大盛り。酸味も非常に強いですが、樽のニュアンス、果物の風味、アルコール度数、ボディの太さ全てにおいて強い。「がっつり」とか「ごつい」という表現がピッタリです。各パラメータが中程度でまとまっているのではなくて、ストロングなバランスで仕上げられています。飲み手の体が元気で肝臓も強いのであればこういう大盛りのお酒は美味しく飲めると思います。私自身もお酒の志向している方向がしっかり感じられるのでカスケードブルーイングのサワーエールは全般的に高く評価しますが、時と場合によってはちょっと主張が強すぎて体が受け止めきれないこともあるだろうと思います。お酒のテンションが高すぎると言い換えても良いかもしれません。
そう、「テンション」なのです。「テンション」という言葉はワイン界隈の知人からよく聞く言葉で、私個人として最近よく考えるテーマの1つになっています。お酒のテンションだけでなく、お皿のテンションやコースのテンションなどが成立する条件だったり。その裏側に暗示される「飲み手としての自分の状態」について一歩引いて考えていかないと単に新しいものをまた1つ飲んだというだけになってしまうのではないかと考えています。「消費」と「飲用体験」の差や違いについて私たちはもっと目を向けても良いのかもしれません。疲れた日、楽しい日、独りの時、大勢の時など、きっとすべてのシュチュエーションでテンションは異なります。最近この切り口をビールにも応用したいとよく思うのです。私自身、結構な年齢になってきてお酒単体に目を向けるよりも飲み手としての内側や内面に着目することが増えてきたからだろうと思います。
今回飲んだのは2015年のもので、5年寝かせた結果酸味だけでなくその他の要素も丸みを帯び、結果としてカスケードらしさを残しつつも非常に調和の取れた液体になっていました。芯はあっても柔らかく、熱量が高い。リリース直後には感じにくかった酸味の奥にある旨味も前面に出てきていて複雑さも増しているように感じます。あぁ、時と共にこなれて美しいフォルムになったなぁとしみじみ思います。強すぎない絶妙なテンションだ。
酌み交わしながら、ふと心に「壮年」という言葉が浮かんできたのです。リリース時は非常にパワフルで、ややもするとトゲトゲしいのだけれども、それは若い頃によくあることで。人間も若い頃は尖っていてやんちゃだったりするものだ。その荒々しさの中にキラリと光るものがあって、今回その秘めていた才能を時と共に開花させていくのを目の当たりにしたような気がしました。気力体力共に充実した壮年、といったところでしょうか。
もちろんまだまだイケますし、もうしばらく全盛期は続くでしょう。きっとその時も美しい姿であると思います。ただ、その時自分が壮年であるだろうか。そもそも今自分が壮年なのか、はたまた青年なのかも分かっていないことに気が付きました。基本的に肉体的には衰えていく一方なのだけれども、クラフトビールという現在進行形のイノベーションの連続に触れていると思考や感覚は衰えるところを知らず、寧ろ若返っていくようにも感じます。歳を重ねるにつれ、逆に心は子供に近づいていくような。スペックだとか世間の評価を排し、ただただ目の前にある液体の美しさに感動できるようになりたいなぁと思ったりもする今日この頃なのでした。