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ひとまず……

最悪を想定していた。
命の期限を宣告されることを。
数年なのか、数か月なのか、いつまで一緒に居られるのか。
ずっとそんなことを考えていた。

乳腺外科の医師は、僕と年齢はそう違わないように見えた。
「夫です。よろしくお願いします」と挨拶をすると、着席を勧められた。
僕が腰を落ち着けるのを待たず、医師はすぐに説明を始めた。

10月の初診から、乳がんの確定診断までの経緯、そこからCTによる転移の確認をした、という流れの説明。
CTの画像の詳細を見る前に、医師は言った。

「一番近くのリンパ節を始め、肺や骨などへの転移は認められません」

良かった。
医師の説明は続いていたが、大きな安堵が僕を包んた。
心の中で胸をなでおろし、医師の話の続きを聞いた。

CTの画像が次々に映し出された。医師が示す病変の箇所に大きな影が見て取れた。あんなに大きくハッキリ映るのか。
続いてリンパの辺り、肺や骨にも影が無く、現状は転移は見られないという説明だった。

乳癌は右乳房に2つ。2cm大と1cm大のものが、少し離れて発生していた。
二つの癌に関係性は認められず、同時に別々の癌が発生しているとの事で、右乳房は全摘出、とのことだった。

一番近いリンパへの転移があるかもしれないので、手術の時にリンパの検査も同時に行うこと、手術は長くても2時間程度であること、入院は手術の前日からで、全部で7日(6泊7日)。
癌を取り除いてから1~2か月後から、投薬による治療を必ず行うことが知らされた。取り除いた癌を調べ、抗がん剤の治療をするのかホルモン剤で済むのかが決まる、と。

手術後、10年は治療が続くとのことだった。
投薬治療とともに、毎年血液検査等を行うなどして経過観察を10年続けるそうだ。

手術後はすぐに普通の生活を送れるそうだ。

良かった、と言っていいのかは分からない。
でも、僕が恐れていたことにはひとまずならなかった。

これからずっと、心の奥底では薄い不安を抱えた生活を送ることにはなるけど、とりあえずあと何年、あと何か月という状況でないことが分かって……良かった。



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