発達障害の疑いから療育開始までの4つのフェーズと課題
子どもに発達障害の疑いがある場合、医療機関で診断を受け、その診断をもって自治体の窓口にて各種案内を受けることで、必要な支援を受けることができる。
この過程は福祉サービスとして多くの家庭を支援している。
しかし、一つ一つの内訳を見ていくと、親のケア不足や、子どもの特性に合わせた療育施設が案内できていないなど、いくつかの課題が残されており、改善の余地がある。
この記事では、発達障害の疑いから療育開始までの流れを俯瞰して、それぞれの課題点と解決案を考察していく。
発達障害の疑いから療育開始までの流れ
発達障害の診断から療育開始に至るまでの流れを以下に図示する。
上図では療育開始までの流れを「診断前」「診断時」「診断後」「療育開始」の4つのフェーズに分け、どのような場所で、どのような行動が伴い、そしてどのような課題があり、どのような解決案があるかをまとめている。
当事者一人ひとりに異なるストーリーがあるので、全員がこの流れを体験するわけではない。受診する医療機関や市区町村、個々人の状況によって流れは異なる為、今回拾えなかった課題も多くあることをご留意いただきたい。
もし療育に関する情報を網羅的に知りたい場合は『発達障害の子の療育が全部わかる本』をご一読いただくと良いだろう。
次に、それぞれのフェーズの課題と解決案を考察していく。
診断前の課題 : 家族の発達障害の理解不足
2017年の鶴岡市が実施した調査によると、発達の遅れや障害に気付いた時の相談先は「家族・親族」が最も多い。
家族への相談後、保健センターや小児科などのかかりつけの医療機関に訪問して、専門家のサポートを得ていると思われる。
ここで問題なのは、相談を受ける家族である。家族のうち、最初に子どもの発達障害に気付くのは母親のケースが多い。そして相談を受ける家族は父親や祖父母となる。
もしも父親が日頃から育児を母親に任せきりの場合、発達障害の相談に対してもサポートできない可能性が高い。精神的な支えにすらなれず、母親の孤独感をより強めてしまうことも考えられる。
もしも祖父母が古い価値観に縛られている場合、発達障害のある子どもを世間から隠そうとしたり、誤った知識により親の育て方が間違っていたのだと非難する可能性がある。
これらの問題が生じる背景には、家族が発達障害に対して適切な知識を持ち合わせていないことが原因である。
現在の義務教育はインクルーシブ教育が取り入れられ、多様性や特性を尊重し合うことを学んでいる。しかし今の大人は、そういった教育を受けられなかった人達が多い為、福祉の中でフォローする必要がある。
母親一人で悩むことなく、家族で向き合えるように支援する必要がある。そして、家庭内で閉ざされることなく、自治体や専門機関と共に、地域全体で育児できる仕組みが必要である。
例えば、発達障害の理解を助けるハンドブックを用意したり、家族で参加するカウンセリングを提供して、発達障害のことや福祉サービスのことを、家族みんなで分かり合えると良いだろ。
診断時の課題 : 慢性的ジレンマの状態
中田洋二郎 (1995) は「障害受容の螺旋形モデル」の提案と共に、親の障害受容の過程を以下のように説く。
我が子の障害に対して割り切ることは難しい。線形に状態遷移することはなく、肯定と否定の狭間で葛藤を繰り返し、このまま永遠に続くかとも思われる苦悩と対峙する。
周囲から支援する場合、親の心理状態に理解を示し、受容の過程を共に歩む姿勢が求められる。
診断時に限った話ではないが、不安要素が集まる診断時においては特に、親の心理状態を汲んだ内容とサポート体制を整備すると共に、親自身に螺旋形の中にいることを認知させ、自身を責めさせない工夫が必要となる。
診断後の課題 : 療育施設の判断基準が不明瞭
以下の福祉サービス利用時の困りごとを問うアンケートでは、上位にサービスや事業者が不明瞭である点が挙がる。 (鶴岡市、2017)
療育サービスの全体像は、自治体の相談窓口や本屋、インターネットで集められる。しかしながら、これは療育に限った話ではないが、親が本当に求めている情報はなかなか手に入らない。
知るべき情報は、大きく以下の3つに分類できる。
サービス
形態 (集団か個別)
プログラム (TEACHH、SST、など)
付加サービス (相談支援、保育所訪問、など)
スタッフ
スキル (保有資格、経験年数、など)
人間性 (雰囲気が良い、笑顔が多い、など)
相性
子の特性との相性
子の性格との相性
親との相性
療育施設のクチコミサービス (全国の発達支援施設検索、Google Map) もあるが、家庭環境や子どもの特性に合ったサービスを提供している施設がどこなのかまでは分からない。
多くの親は、自治体の担当者に案内されるがままに、よく分からない状態で療育施設を選択することになる。結果、アンケートに表れたサービスや事業者の不明瞭へと繋がる。
自治体は特定の業者を贔屓にはできず、自治体の担当者の主観で案内できない。客観的な療育施設の判断基準を設け、医療機関によるアセスメントと組み合わせて、包括的な情報の元に療育施設を案内する体制が求められる。
また、施設見学も支援して、親と療育施設の距離を近付けてあげることも重要だろう。
療育開始の課題: 就学など将来に関する情報不足
以下の子ども関連の悩みごと・困りごとを問うアンケートでは、子どもの将来に関わる回答が上位を占めた。 (鶴岡市、2017)
このアンケートの回答者は主に親だが、その子どもは「5歳以下」から「39歳以下」と幅広く、うち6歳から17歳の範囲がボリュームゾーンであることも、この傾向を形作っていると思われる。
短期的な観点では直近の育児や教育、中期的には進学、そして長期的には就職や将来の生活という具合に、親は先々のことに不安を感じているようだ。
相談支援専門員や支援学級・学校が適切なタイミングで情報提供をしてくれるのだが、それだけでは不十分ということだろう。
例えば、福祉サービスに精通したファイナンシャルプランナーに相談する機会があると良いだろう。
将来に必要なお金をシミュレーションすると同時に、子どもの成長フェーズ別の考慮ポイントや福祉サービスを書き起こすことで、全体を見通すことができる。
障害年金やグループホームを知ることで、社会の仕組みが想像以上に整っていることが分かって安心に繋がる。成年後見制度を知ることで、親亡き後の子どもやきょうだいに対する憂慮の緩和に繋がる。
既にサービスとして提供している民間団体も存在する (LITALICOライフ)。しかしこのサービスを享受できるのは運良く本サービスを発見できた親だけである。状況に左右されず、必要とする人達に届けられる仕組みが求められる。
課題発見の先に
以上で見てきたように、発達障害の診断から療育スタートまでのプロセスは自治体によりサポートされているが、それぞれのフェーズを軽く俯瞰するだけでも課題は見つかり、また今回取り上げられなかった課題も多く存在している。
鶴岡市がアンケートを取り、その結果を元に計画立案しているように、既にいくつかの自治体や民間団体が課題解決に乗り出している。
しかし、完璧な解決策を打つことは難しく、優先度の問題でいくつかの課題は認知されているものの、そのまま見過ごされる可能性がある。
親は自身が抱える課題が埋もれぬよう声を上げ続ける必要がある。そして自治体は一人でも多く、一つでも多くの声を拾えるように人材確保やデジタル化など体制と仕組みの整備が求められる。
Appendix
参考文献
関連リンク
鶴岡市 (2017年8月1日), 『鶴岡市障害福祉計画』
中田洋二郎 (1995年12月), 『親の障害の認識と受容に関する考察-受容の段階説と慢性的悲哀』
療育施設のクチコミが掲載されているサービス
ライフプランニング (LITALICOライフ)
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