『〈論考〉 自己責任論の現在--もがく学生たち--』についての雑感
数か月前、「自己責任論」で検索していた時にとても面白い論文に遭遇し、つい全部読んでしまった。少し古い論文で、学生の年代とまさに自分が同じなのもあり、感情移入しながらすべて読めた。
大阪経済大学の池野重男准教授が雨宮処凛氏の講演や著作を受けて学生にレポートを提出させ、そのレポートについて考察するという内容だ。雨宮氏の著作『生きさせろ! 難民化する若者たち』『生きのびろ! 生きづらい世界を変える8人のやり方』も数年前に非常に面白く読んでいたので、それを同年代の学生がどう読んで反応したのかについても非常に興味深かった。
池野准教授は「ダメ学生論」にも「自己責任論」にもただ切って捨てるだけの態度はとっておらず、それぞれについてしっかりとした考察を続けており、非常に読ませる文章となっている。最初に「自己責任論」の残酷さをわかっていてなお捨てられない学生の感想を紹介している。
厳しくてしんどい現実に負けまい・落ちこぼれまいと必死に頑張る彼(女)らの姿が、これらのレポートにある。
と評する池野准教授の優しさがしみる。
7ページからの学生の感想
自己破産や生活保護のような方法、フリーター労組や『もやい』などの手助けをしてくれる存在の情報を知っている人が実際にどれくらいいるのだろうか。
という観点は白饅頭先生が何度も何度も語っている点であり、「制度や組織を知らない人にいかに知らせるか」という困難な課題があり続けることを示している。
イラク人質バッシング事件などから人口に膾炙し始めた「自己責任論」を肯定する学生に対しては池野准教授は厳しい論調で反論する。この中で言及される「『自己責任論』を唱える側が盛んに言う『代案を出せ論』は大概が何もしない自分の正当化のためか、あるいは、既に決めた事案を何としても強行する側の口癖である」という趣旨の文章には唸らされた。
「努力主義と自己責任論」については、
「大事なのは努力と結果の因果関係がちゃんと成立していることだ」と言うこのレポートの基底には「努力と結果の因果関係がちゃんと」科学的に成立しうるのだという信頼があるのだが、しかし、それは幻想でしかない。ひところ流行った能力主義型賃金・査定が行き詰まり、その撤回ないし大幅な修正がなされている現実がそれを示している。
と喝破する。
「自己責任論」を強度に内面化し、雨宮氏の講演に「聞く耳を持たない」「独善的な」学生のレポートに反論する部分には舌を巻いた。この学生のレポートを引用するのは私にとっても辛いものがあるので引用はしないが、このような実力主義の学生がこのレポートを書いた九年前と同じことを今言えるのかどうか聞いてみたいものである。幸いにして今就職に成功してバリバリと働けていたとしても、それを数年数十年続けていける保証などどこにもない。もし働けなくなった場合、(過去の)自分や他人からぶつけられるのは自分の吐いた「自己責任論」である。
現在の日本では見て見ぬふりをすることのできない「自己責任論」をしっかり考えなおすことができた良い論考だった。
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