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世界一うまいフライドポテト様

諸君 私はお芋を
地獄の様なお芋を望んでいる
諸君 私に付き従う大隊戦友諸君
君達は一体何を望んでいる?
更なるお芋を望むか?
情け容赦のないハイカロリーなお芋を望むか?
鉄風雷火の限りを尽くし
三千世界の鴉を殺す
嵐の様な芋祭を望むか?
『『『お芋! お芋! お芋!』』』


よろしい ならば揚げ芋だ


(「少佐 演説」でググると、二次元で最も格好いいぽっちゃり系の名演説が全文読めます)



先日、敬愛する凄腕料理人の御一人であらせられるおてだまさんが、こんな記事を紹介なさっていた。


食べてみたいですねー!って声に出る事案。


どうですかこの、金色(こんじき)に輝くうつくしい揚げ芋たちは!このお写真を見た瞬間私は確信したね、これを避けてのこの先の人生あり得ない───って。私はこの『世界一のフライドポテト』に出逢うためにこの世に生を受けたのだと。ちっちゃな頃から芋娘~♪だった今までの日々は、この場所へと繋がっていたのだと。そしてこの光り輝く揚げ芋たちも、私がこの聖典の扉を開く瞬間を、ずっとずっと待っていてくれたのだと。

それは一見、人ひとりの生涯にいくらでも転がっているような、数多ある偶然の出逢いのように見えるかもしれない。けれど私には分かった。邂逅した瞬間に全てを理解した。偶然なんかじゃない、これは必然。私とお芋との間で、遥かなる太古より約束されていた運命(デェステニィー)だったんだ。


身体の奥底から突き上がる衝撃と歓喜に、慟哭しながらスマホを胸に抱き締めて床にくずれ落ちた、その刹那。私の中の少佐が唇の端を吊り上げて囁く声が、確かに聴こえた。


『征くぞ、ワカナ』



おてだまさんが紹介なさっていた、本家本元の聖典もしっかり紐解きました。鳥羽周作シェフによります、とっても丁寧で分かりやすいレシピ。プロフェッショナルのお仕事は大変にうつくしく、そして見てるだけですでにおいしい。呑める。


さあ諸君、揚げ芋を作るぞ。



というわけで今夜の晩ごはん兼おつまみ、世界一のフライドポテト。じゃがいも(男爵)は丸ごと塩茹でして、竹串がすっと通るくらいになったら引き上げ、5mmから1cm程度に輪切りする。おてだまさんは蒸していらっしゃったけれど、うち蒸し器がないもんで……。レンチンなんかでもよいのかもしれませんな。

このスライスジャガーに竹串でぽちぽち穴を開けて、冷蔵庫にて一晩寝かせる。

一晩お休みいただいたジャガーを、常温の油(ここがメカラ・ウロコだった!)の中にぶちこんで火にかける。火力はずっと中火。しばらくすると油がしゅわしゅわしてきて、ジャガーたちから大変に芳しいにほひが漂ってくる。ああ、この香り……なんて素晴らしい芳香だろう。この世の終焉までずっと吸引していたい匂い世界選手権の表彰台間違いないですね。ちなみに表彰台のトップは、冬のお日さまをたっぷりと浴びたねこの腹部の匂い。異論は認める。

片面がいい感じのきつね色になったらひっくり返しつつ、表面を箸でつつくとガリガリになるくらいまで、じっくり揚げてゆく。きつね色のガリガリ君が爆誕したところで、すぐに油から引き上げて新聞+林家ペーパータオルの上に取り、油を切る。

シェフもおてだまさんも、シンプルに塩やバター、ガーリックパウダーで味つけをなさっていた。のだけれど……揚がったやつをひとつ味見してみたら、あまりのおいしさに私の中の呑兵衛精神が馬に乗って走り出してしまった。ババにしっかりつかまっておいで……こうなってはもう、誰も止められないんじゃ。


フライパンにバターを溶かし、おろしにんにく(チューブのもの)とアンチョビを入れ、ぐるぐるかき混ぜながら火を通す。こいつで揚げ芋たちをささっとあえたら、千切りキャベツと共にお皿に盛りつけ、マジックソルトを一振りしてできあがり。


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え、これ焦げてないかって?HAHAHA、我が家の基準だとこんなのは焦げているのコの字すら見えない。何しろ黒くなってないもの。

……いや、明らかに揚げすぎたな。おてだまさんが仰っていた35分より、少ない揚げ時間だったのだけれど。でも味見したら焦げてなかったからセフセフ。


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敬愛する池波正太郎御大が、「シャンパンに最も合う肴はポテト・フライ」と仰っておいでだったので、シャンパン……ではなくスパークリングワインを(シャンパンは王族ののみものなので、庶民は年に一度しか買えない)。キャベツの千切りも、御大の著作を参考に添えてみました。


池波御大が書かれたお料理にまつわる文章、まじですこすこのすこ


ガリガリ君になるまでじっくり揚げたじゃがいもは、歯を入れた瞬間に「バリッ☆」と小気味よい音が鳴る。めちゃくちゃいい音!天使が吹き鳴らすラッパに勝る音!そして素晴らしい歯ごたえ!なのに、芯の方はねっとりとした食感と、お芋の美点であるほくほく感もしっかり感じられる!すごい……なんなのこれ、どちゃくそのバチクソにめちゃんこおいしいんですけどどういうことなの?!!!お芋自体のやさしくておおらかで穏やかな甘みと、バターのコク、にんにくの香ばしさ、アンチョビの塩気、が完璧すぎる四重奏を奏でている!

そして池波御大のお言葉通り、アチアチでバリバリでねっとりでほくほくなお芋に、シャンパンならぬスパークリングワインの爽やかさとキレの良さが、ベストマッチ!アンチョビの塩気があるので、キャベツにはあえて何も味つけせずに添えたのだけれど大正解。甘みがよく引き立つし、シャキッとした歯ざわりもいいバランスだ。揚げ芋→キャベツ→泡、ってこれ、永久運動できちゃうやつだわ……。お芋を愛するがあまり、長い年月をかけてお芋のような形状に育成されてきた私の肉体が、ますますお芋のシルエットとシンクロしてしまうではないか。お前が俺で俺がお前で……ワカナからお芋に改名すべき時がもうそこまで迫ってきているのか……なんてことを独りごちている間に、小さめのものも含むとはいえ4つ分あった男爵がきれいに消失していた。


『優れた揚げ芋は時空すら歪ませる』

新たな学びを得た晩夏の夜。いやー、本当においしかった!ごちそうさまでした。揚げ芋の概念が完全に生まれ変わったつーか、一口かじった瞬間シュトラウスの「ツァラトゥストラはかく語りき」が高らかに響き渡ったな。モノリスに最初に触れた猿って、こんな気持ちだったんじゃない?

あらかじめお芋を茹でておいたり、じっくり揚げたりと、ちょっと時間はかかるけれど、それでこんな至高にして究極のフライドポテトがいただけるなんて……。しかも行程はいたってシンプルなのが素晴らしい。鳥羽シェフ、おてだまさん、こんなにも魅力的なレシピを教えてくだすって、本当にありがとうございました!

味つけを変えたり、ディップ的なものを添えてみてもおいしそう。いやいやしかし、やはりシンプルに塩のみでいただいても間違いないはず……次回作への意欲が早くもりんりんと沸き上がってきています。


……これさつまいもで作ったらどうなっちゃうんだろ。(ドキドキ



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