じゃんけん。
しばらく在宅勤務していたので、今日は久しぶりに出社した。とはいえ、朝息子を送り出してからの出発なので通勤時間からはズレた、ゆったりした時間だ。
それでも車内は適度に混んでいて座る席はなく、私は吊り革を持って立っていた。
あと一駅で乗り換えという頃のこと。
あなた、どうぞ、座って。
なんと目の前に座っていたご年配の女性に席を譲られてしまった。
いえいえいえ、私次降りますし。
なにより、ご年配に譲ってもらうなんて。あ、ひょっとして、いたたまれないほど、私疲れて見える? ひょっとして年上に見えちゃうほど??
まさかと思いながら恐縮していると、私の足元を指差し、
ほら、靴紐ほどけてるから。さっきから心配で。私なら、大失敗しちゃいそうで。だから、はい。
靴紐が解けているのは気づいてた。歩いてる時から解けていたけど、傍に退けて結び直すのも面倒だったし、ホームに入ったら電車もちょうど着いてしまい、なんとなく、解けたままの靴紐で、ここまできたのだ。
あぁ、ありがとございます。気づいてたんですけど、降りたら結び直そうかと思って。大丈夫ですから。
と辞退するものの、さぼど混んでないこともあり、女性は既に私の横に立ち、ほら、とばかりににっこりしている。
では、お言葉に甘えて。
と、席に座り、靴紐を結び直した。既に、
次は〜◯◯駅、◯◯駅。
とアナウンスが流れるところまできていたので、譲り返すことはぜず、そのまま座り続け、お互いペコリと頭を下げて電車を降りた。
そういえば、以前こんなこともあった。
同じ電車の通勤時、目の前の人が降りて席がひとつ空いた。次々と乗り込んでくるので空席を埋めなければ立っている人の混雑がひどくなる。そう思って、隣の女性を見ると同じような顔をして私をみている。
どうぞ。
いえ、どうぞどうぞ。
ほぼシンクロして、動作が止まったので、咄嗟に、
では、じゃんけんしましょう!
と言葉をついだ。
え?
という返しを待たずに、
じゃんっけんっ!
と声を出すと、
ほい!
と、相手の女性も手を出してくれた。
私がグー。相手はパーだったので、
あー負けた!はい、座ってください!
と言うと、観念したように。
はい、ありがとございます。
と、クスクス笑いながらその人は座ってくれて、やっぱり、お互いちょっとだけペコリと頭を下げて電車を降りた。
あんなこと、したこともないし,しようとも思ってなかったのに、なんで、じゃんけんなんか思いついたんだろう。自分でも不思議だ。
今日の、「靴紐ほどけてますよ」は、あの日のじやんけんのお返しだと思っている。次は、どんな返しをしようかな。意外過ぎて、つい乗ってしまうヤツがいいな。