![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/152250940/rectangle_large_type_2_024ce8d4c968c31edbb74dec87524e04.jpeg?width=1200)
<スペシャル対談>医療・ヘルスケアの専門家が期待する、WizWeの習慣化サービスが生むインパクト
今回の習慣化対談は、静岡社会健康医学大学院大学 行動科学・ヘルスコミュニケーション学領域 准教授である藤本修平氏をお迎えしました。
Healthtech/SUM 2022での出会いがご縁で、WizWe習慣化研究所の客員研究員に参画いただいている藤本氏には、医療・ヘルスケア分野の専門的知見から多大なるアドバイスをいただいています。
本対談は、森谷との出会いから始まり、藤本氏が専門とする行動科学やインパクトロジックについて、そしてWizWeへの期待についても深く掘り下げてお話しいただきました。
![](https://assets.st-note.com/img/1724821936510-hbKOreqmYS.jpg?width=1200)
・静岡社会健康医学大学院大学
行動科学・ヘルスコミュニケーション学領域 准教授
WizWe習慣化研究所 客員研究員 藤本 修平 氏
・株式会社WizWe 代表取締役CEO 森谷 幸平
出会いはHealthtech/SUM。ヘルスケア業界に面白い企業が現れた
藤本氏(以下、藤本):森谷さんとの出会いは、メドピア主催のHealthtech/SUM 2022の懇親会でしたよね。ピッチを聞いて圧倒的に一番だと感じました。ヘルスケア業界に面白い企業が現れたという印象でしたね。私は長年ヘルスケアに携わっているので、異なる分野からヘルスケアに参入してくれることが非常にうれしいです。せっかく参入してくれた企業が、ヘルスケアに対して失望して離れてしまうことを危惧しているため、いろいろな方法でヘルスケアの魅力を伝えて、離脱しないようにしたいと思っています。
ですから、懇親会の時には、業界の深さを知ることと同時に、ヘルスケアという概念が非常に広いので、その中でどこにポジションを取るかがかなり重要ですという話をした記憶があります。
森谷:ピッチでは未病・予防領域でのサービスについて話しました。医療市場は圧倒的に治療領域が主流で未病・予防の領域はまだまだ小さいですが、未病・予防領域の成長次第で違いますよというアドバイスをいただきました。
藤本:多くの事業者は行動変容の技術を使って何かしらのサービスを提供していて、行動変容自体のサービスを展開しているわけではありません。そこを、行動変容自体に刺していくというのは確かに新しいと思いました。そういうポジションを取っているので、いろいろな企業とのコラボレーションが可能になると聞いて、なるほどと思いました。そこは大事ですよね。
森谷:教育の領域から出てきた影響が大きいと思います。英語教育は既にレッドオーシャンだったため、そこでビジネスをするなら行動変容で行くしかなかったですね。
藤本:すごくいいなと思ったもう一つの理由があります。少し飛躍しますが、私は西アフリカでWi-Fi基地局を設置している企業に出資しています。インフラの企業で一見ヘルスケアとは関係がないように見えますよね。西アフリカは健康問題が深刻なのですが、その理由のひとつに健康リテラシーが低いことにあります。現在、携帯の普及率は高いものの、ネットの環境やコンテンツはそこまで整っていないので、インフラを整えることで、後々健康サービスを受けられる世界が来るのではないかと考えました。
このように、ヘルスケアはすごく幅広く捉えられます。同じように、行動変容も広く捉えると、消費者の行動を変えるだけで、何でもヘルスケアにつながると思っています。特に消費に対する責任感やインパクトを考えたときに、健康というのは人々の病気だけではなく、気候変動なども含まれます。消費者の行動が変わらなければ、地球の健康も改善されないので、人も健康になりにくいということが起こります。そこがすごく新しいと思いました。
![](https://assets.st-note.com/img/1724822077934-fW5HKDtCR4.jpg?width=1200)
森谷:ヘルスケアは本当に奥が深くて、関われば関わるほど面白い領域です。Healthtech/SUM 2022の頃は、サントリーホールディングス様の睡眠力向上の事例くらいしか出せなかったのですが、そこから一気に商談を進めていきました。
藤本:ヘルスケア領域は、みんな困っていると思います。7月にIVS2024がありましたが、私が関わっていたSocial Issueのセクターでは、消費者の行動変容に多くの関心が集まっていました。社会課題として行動変容が大変注目されています。期待を込めて言うと、WizWeさんはヘルスケアと教育がありますが、いろいろな行動変容のパターンがあるので、どんどん広げていけば、最終的にはヘルスケアへと回帰するという感覚があります。
森谷:エクイティの活動も行っていますが、SNSマーケティングやECとの相性が良く、いろいろコラボレーションできそうです。消費者動態とヘルスケアの数値を改善することが連動すると感じています。
藤本:確実に連動しますね。社会課題は多くが人の行動変容で改善します。ヘルスケアに近いところで言うと、フードロスは温暖化に大きな影響を及ぼしています。温暖化になる要因を100としたときに、例えば、排気ガスが100のうち10だとすると、フードロスはそれと同じくらいの影響があります。
排気ガスを抑えて行動変容していこうと思うと、車を使わない、電気自動車にするなど極端な方向になりますが、フードロスは比較的行動変容しやすいです。その行動変容によってどのようなインパクトが生まれ、経済的にどれだけの効果があるかを評価すると、実はフードロスの改善の方が、市場が広がっていく可能性があります。これも健康・ヘルスケアなので、そういうことが全てヘルスケアにつながってくると考えているところです。
森谷:最近、消費欲求の横展開が効果的だと感じています。自然に楽しいと感じること、例えばゲームなどがうまく社会実装されると、小さな後押しだけで継続的な行動が促されることがあります。そういったデザインに非常に興味がありますね。つながることができそうなことが結構あると思っています。
藤本:それこそSNSなどはコミュニティの行動変容ですから、うまく使えば、ナッジ(行動をそっと後押しする)効果がありますし、誤用するとスラッジ(悪影響を与える)となり得ます。その辺りを適切に設計することができれば、非常に強いサービスになると思います。
森谷:その通りですね。人々が欲望領域に向かうドライブと、ありたい姿に向かおうとするドライブをうまく組み合わせていければと常に考えています。
人の意思決定に興味。Shared Decision Making(共有意思決定)の研究へ
森谷:藤本さんはどのような経緯で行動科学に興味を持ったのでしょうか?
藤本:私は、人がどのように決断を下すのかに非常に興味があります。元々は脳科学の研究をしていて、頭に電気刺激を流したときの感覚の変化を調査していました。例えば、脳卒中の患者さんで片側が麻痺して感覚が鈍くなったり、運動ができなくなったりするケースがあります。運動は回数を重ねることで改善されるものもありますが、感覚の回復は難しいです。
そうした背景から、リハビリテーションの方法を模索していました。障害を持った状態のまま進むのと少しでも改善されて進むのでは、人の意思決定はどう変わるかという基礎研究をして医療者の臨床応用に期待していたのですが、基礎研究だけやっていても医療者の行動は変わらないということに気づきました。要は、その技術を社会実装してサービス化しない限り、人はなかなか利用してくれません。
そこで、よりマクロな視点で意思決定を見ることにしました。ヘルスコミュニケーションを通じて人の意思決定は変わるのかというところに興味を持ち、Shared Decision Makingにおいて、患者さんと医療者がどのように分かち合えば、患者さんが自らの治療に対して納得して積極的に治療を進めることができるのかという研究に没頭し始めました。それが、医療者と患者さんの行動変容はどのように起きるのかというところにつながっていきました。行動というよりは決めるということに興味を持ったのが原点ですね。
森谷:非常に興味深いですね。私たちはビジネスサイドからヘルスケアに入りましたが、人が何かを決めて行動を始めるきっかけや、行動が続く源泉を常にリサーチしています。自律やセルフドリブンになるきっかけは、共通の目標について自分以外の他者とコミュニケーションをしながらすり合わせ、お互いのものにすることで生まれます。このプロセスは、習慣化サービスを実践していく中で、現場から見出しました。今のお話の内容と合致しますね。
藤本:私は、患者さんが進んでいくところに寄り添い伴走していくことが医療者の役割だと定義して研究していました。WizWeさんもプレイヤーが違うだけで、やっていることはほとんど一緒ですよね。
昔は医療者がリードして患者さんがついていくというイメージでしたが、その結果、患者さんが納得していないまま治療を受けることになってしまい、訴訟が増えたり診察時間が長くなったりする問題が発生していました。
ですから、寄り添うという形、まさにリハビリテーションの考え方がそうなのですが、医療者が患者さんに対してリハビリテーションをするのではなく、実際には患者さんが主体であるべきで、医療者はサポートする役割です。患者さんがすることに対して付き添っていくというのが正しいのですが、どう進めばいいのか分からない、なりたい姿がわからない、目標としたいことが分からないというときに、患者さんが自分で決定できるように、ある手法を使ってフォローするという研究をしています。
![](https://assets.st-note.com/img/1724822214751-zzyrMUTFXr.jpg?width=1200)
森谷:それはユニバーサルに有効ですね。
藤本:最近は、ある省庁のファシリテーションやメンタリングにもShared Decision Makingが使えるのではないかと言われていて、講演依頼をいただくことがあります。実は、医療だけでなく、教育分野でもこの概念は用いられているんです。医療の現場では1990年頃から登場しましたが、教育に関する論文を見ると、1950年代や60年代からこの用語が使われていました。恐らく、伴走のようなアプローチは、教育の分野から影響を受けているのかもしれません。
森谷:最近、製薬会社様にもアプローチをしているのですが、皆さん患者中心主義ですよね。
藤本:その通りです。製薬会社は、薬を売っていたところから、アドヒアランス(服薬順守)を向上させるためのコミュニケーションが重要になってきたということと、薬を売るだけでなく、患者さんの実情に根差したサービスとして展開する必要性が出てきました。薬の効果を高めるには、薬を適切に服用することはもちろん、運動を併せて行うことや、服用に対する納得感も重要です。服用時のコミットメントをしっかりやっていくには、コミュニケーションが大切ということですね。
実際、多くの製薬会社からShared Decision Makingに関する講演依頼を受けていて、医療者より製薬会社のMRの方々が詳しい場合も多くなってきている印象です。
私は、2013年からこの分野の普及や啓蒙を行っており、この10年で医師の意識も大きく変わってきています。特に内科や家庭医の間では、Shared Decision Makingを知らないと適切な治療が難しいという認識が広がっています。製薬会社もそこにしっかり意識を向けているのではないでしょうか。
森谷:WizWe習慣化研究所の理論的には、コミュニケーションにおいて適切なきっかけがあれば習慣化しやすいとわかっています。AIが広がるこの時代でも、人間が直接介入しなければ火がつかない領域が確かに存在しますので、その部分を濃密にフォーカスし、他を可能な限り自動化していくことで役に立てたらと思っています。ただ、Shared Decision Makingのきっかけがないと始まらないですよね。私たちの理論上、最初の3日で行動が始まらなければ、その後はなかなか難しくなってきますので、起点の重要さがますます際立ってきますね。
藤本:その通りですね。責任を伴う意思決定は人にしかできません。その意思決定に至るまでの知識、病気や薬の知識だけではなく、同じ病気の人が何を選択したかなど、患者が知りたい情報をインプットして自動化することはできます。しかし、最終的にはいくつかの選択肢が残り、どのように決めればいいか迷うことが多いです。決め方が分からないので、そこは人の介在が必要不可欠だと思っています。この役割を担えるのは、寄り添うことができる人たち、医療職や介護職、ヘルスケアであればサービスプロバイダーになりますね。
森谷:対人業務ができる機能は結構社会に存在しているので、そことの連動が成功の鍵を握っています。ひとつひとつユースケースになるとは思いますが。
藤本:そこはすごく難しいところですよね。例えば、多くの業務は人でなくても可能です、でも行動変容を含めた意思決定のところは人の介在が不可欠ですとなったときに、人がその意思決定をどう意識して決定しているのかは、ほとんど言語化できないのが現状です。
面白いのは、医療職は日常的に「エビデンス」という言葉を使いながら治療を行っていますが、自分の治療の意思決定プロセスをフローチャートにしてくださいと言われたら、意外と苦手であったりします。これは、意思決定プロセスが言語化できていないからです。エビデンスに基づいて行動はできるものの、それを言語化するのは難しい。専門の医療者でさえ意思決定は非常に難しいため、その意識をどう高め、改善していけるかが、意思決定や対人業務の1つの解ではないかと思っています。
森谷:製薬会社様とは情報交換を続けていたのですが、ようやくアドヒアランス関連の契約が取れ始めました。やはり、未病・予防がメインです。医療は縛りが多く、まだまだ難しいですね。
「人としてどうありたいか」が本当のインパクトになるといい
森谷:インパクトロジックの研究は、いつ頃から取り組まれているのですか?
藤本:インパクトロジックに取り組み始めたのは2016年頃です。当時、ソーシャル・インパクト・ボンド(SIB)が注目され始め、多くの自治体が取り組みを進めようとしていました。特に地方では、ソーシャル・インパクト・ボンドまではいかなくても転倒防止策など様々な施策の事例が出てくるようになっていたのですが、報告書が似通っていることがとても不思議でした。モデルだから似ているのか、リハビリテーションに従事していた者としては、これでいいのかという違和感がありました。
明確に違和感はこれだと気づいたのは、転倒予防体操の参加者が増えることがKPIになっていて、実際に転倒がどれぐらい予防できたかについてのデータがなかったことが理由です。身体機能が向上しているということであればまだ分かるのですが、そんなに上がってない、さらに高齢者に骨折の割合は減っていないことから、この対策は意味があるのかと疑問に思いました。そもそも、この対策がどのようなインパクトを目指して設計されたのだろうと考えたことが、インパクトロジックモデルに取り組み始めたきっかけです。
また、がん検診の受診率を高める取り組みなどもこの時期に盛んになってきていました。今では当たり前になっていますが、取り組みを進めている企業のロジックモデルがとてもきれいでした。それが主流になっていくわけですが、そういった社会的なインパクトを捉えるときに、医療従事者の活動というのは全て社会的インパクトにつながりそうなんですよ。でも、本当にそうなのかということに疑問を持ち、ロジックモデルの在り方を研究し始めたというのが、今に至る系譜ですね。
![](https://assets.st-note.com/img/1724822551039-xuZAflDbQM.jpg?width=1200)
森谷:現在もロジックモデルを組むことはありますか?
藤本:企業から依頼を受けると、大体は「これでいいのか」と問われます。多くの企業が同じような課題に直面していて、ロジックモデルを見ると、言葉やサービスが違っても、ほとんどが同じに見えます。予定調和的に書かれた内容が多く、それによって企業のカルチャーや実際に目指す社会的インパクトが反映されていない場合が多いです。そこで、私はまず企業のカルチャー、MVV(Mission, Vision, Values)を聞き出し、その上で改めて取り組みを見直すよう提案しています。リソース的に年に数社になりますが、支援を行っています。
森谷:インパクトとは具体的にどのような概念ですか?医療費の削減など、様々な側面があると思いますが。
藤本:正直、インパクトという言葉はあまり好きではないのですが、わかりやすさのために使っています。特に医療の分野では、医療費の適正化、健康寿命の延伸、人材リソースの確保などが言葉としてはよく使われますね。
ただ違和感があるのは、国民に「健康寿命を延ばしたいか」と聞いたときに、本当に延ばしたいと思っている人の割合はどのくらいなのかということです。大事なファクターであるとは思いますが、寿命を延ばすことがいいこととして捉えられている。もちろん、そのような価値観があること自体はいいことだと思いますが、もっと密度の濃いことをして死にたいという人もいるかもしれないと考えたときに、健康寿命の延伸ですら手段であって、もう少し哲学的な人としてどうありたいかというところが本当のインパクトになるといいなと思っています。
森谷:未来のありたい社会を想起しながら。
藤本:そういうことです。
行動変容を考える上で、哲学的な視点が欠かせない
森谷:現在、習慣化サポートという観点で社会実装を進めていますが、サポーターと会話が生じることが、高齢者にとって非常にプラスに作用しています。よくあるのは、かつての共同体、集落などですよね。私自身、田舎から東京に出てきましたが、集落の人々が徐々にいなくなり、次の世代が続かないことで、そのコミュニティが希薄になっていきます。結果として、会話が減少し、孤独が生まれるという問題があります。この問題に対処することは、非常に大きな意義を持っています。
藤本:確かに、コミュニティは非常に重要です。コミュニティーベースの高齢者活動が身体機能の向上に寄与するという論文が多くあります。カーブスがまさにその例ですね。しかしながら、現在の40代、50代が70代、80代になったときに、彼らが同じような活動形態を望むかどうかはわかりません。コミュニティが大事だと言われていますが、ではその先に何があるのかという点が議論されるようになってきています。
人とのつながりは非常に重要ですが、次に大事なのは、他の人に対して何かをしてあげているというやりがい感で、これがコミュニティよりも効果があるのではないかという話が出てきています。コミュニティ+GIVEの精神、例えば、フィランソロピーのような寄付文化が海外では一般的ですが、日本ではまだほとんど根付いていません。実は、こういった文化が健康寿命に大きく関わってくるかもしれません。
また、コミュニティだけでなく働きがいも大事です。最近では、寝たきりになっても働くことができるような世界になってきました。それがその人が望むありたい姿なのだとしたら、そこにどれだけ近づけるかというところが、健康につながってくるのではないかと考えているところです。
森谷:習慣化サポートの言語解析をしたときに、一番いい状態のユーザー様からは、「ありがとう」という言葉がたくさん出ることが分かりました。サポーターも喜びを感じています。誰かの人生に貢献していると感じることが、快活な人生を送る上で非常に重要です。人間はそういう生き物なのかもしれませんね。
藤本:本当にそう思います。結局、ヘルスケアも含めて、すべての分野が哲学に行き着くのではないかと思っています。
これは行動変容に関わるところなのですが、通常、人は自分がすでに持っているものに対して大きな価値を置きます。例えば、コップを持っている人から「これをいくらで買いますか?」と聞かれて「500円」と答えるとします。「じゃあ、ただであげますよ。」と言われてコップをもらいました。そのコップを誰かが「いくらで売ってくれますか?」と聞いてきたときに、最初に言った500円よりも高い金額を付ける傾向がある。これが、手元にあるものを大事にするという人間の正常な反応です。
一方で、悲しい気持ちや嫌悪感があると、この価値観が逆転することがあります。人は今持っているものを大事にしすぎて新しい一歩を踏み出せなくなることがあります。これは現状維持バイアスと呼ばれる現象です。しかし、悲しみを感じると周りのものの価値が高く見えてくる、いわゆる「隣の芝生が青い」現象が起こります。自分の感情が分析できていないと、こうしたバイアスで揺れ動いて意思決定に影響し、後悔することもあると思います。
だからこそ、自分のことをどれだけ認知できているかが、最終的には「人とは」というところにつながってきます。ヘルスケアはこれが非常に重要な領域なので、行動変容を考える上でも、こうした哲学的な視点が欠かせないのではないかと考えています。
![](https://assets.st-note.com/img/1724822592221-krJUFKgSoG.jpg?width=1200)
森谷:私は人間だものというのが好きです。私たちのサービスは、「三日坊主は当然」という考え方から設計しています。弱い自分を認め、それを前提にしたうえで継続可能な仕組みを構築することが、とても大切だと思います。先ほどのお話の「ありたい姿」や「自分とは何者か」といった哲学的な問いと連動していますね。
藤本:行動変容によってたくさんの多様性が生まれると思うのですが、その多様性によって何でもありの文化になっている部分もあります。一方で、自分のありたい姿や目指すべきことを言語化できていないと、その多様性の中で方向を見失い、逆につらい状況になっていますね。
森谷:その通りですね。そのためにはメンタルケアが重要になると思います。時には正解を強制することが効果的な場合もあるでしょう。しかし、世の中はそうなってきていないですよね。
藤本:そうですね。最近若い方々と話すと、自分のなりたい姿を具体的に言語化できていないことに気づきます。これ自体は悪いことではありませんが、言語化できていないと、何にモチベーションを見出して生きていけばいいのかというところまで行きついてしまうと感じています。メンタルが安定していれば問題ないのですが、少し不安定な時はそう感じる人が多いようです。
「人とは」を突き詰めれば突き詰めるほど多様性に近づいているように見えるのですが、実は個人個人の意識の変容が非常に大事になってきてしまいます。そこが行動変容の面白いところですね。自己認知を深めれば深めるほど、「自分はこういう人間だから、気をつけなければ」と思わざるを得なくなります。そこは行動変容の醍醐味であり、人間らしさをどう捉えていくかが大事になってくるのではないでしょうか。
森谷:どろどろした感情や欲望を含めて自分という在り方が、実は好きなんです。必ずしもきれいでなくてもいいのかなと思っています。
藤本:人間らしさですよね。自分たちが前に進んでいくためには感情やメンタルは揺らいでもいいと思っています。それは行動を変えるという前提になるのではないでしょうか。揺らぐことが許されないと、自分は「ダメ」か「いい」かの2軸でしか判断できなくなってしまうので、行動が変わりません。ですから、もう揺らいでいていいから、今これを行動しようというところまで突き詰められればいいのかなと思いますね。
森谷:私たちは習慣化を支援する会社なので、少しポジショントークになるかもしれませんが、行動を始めてみることで気持ちも変わることが多いです。例えば、3日目に動いていれば、1カ月後にはかなり良い状態になっていることがよくあります。ですから、もやもやしていても「まずは動いてみる」というのが重要です。ただ、一方でこうなりたいという具体的な目標がなければ動き出せないという人がいるのも理解しています。
藤本: 確かに、目標がなく取りあえずやってみようって難しいですよね。
森谷:昭和の時代は「とにかくやれ」というスタイルでいけましたが、今は科学が社会に浸透しているのでそれは難しいですね。先ほどのShared Decision Making、私たちの会社では「目標設定」という言葉を使っていますが、ここをいい具合にすり合わせるのが非常に重要だと感じています。
藤本:決めるときに人と人が関わると、属人的になりそうですよね。でも、形式化できる部分とできない部分、それをWizWeさんはうまく蓄積されているのだと思います。これを医療でもできたら素晴らしいと思うのですが、医療者自身も自分を属人化したい人が一定いるんですよね。医療の現場では行動変容が必要な場面が多く出てくるのですが、なかなか進みづらい、形式化するのは難しいです。そうなると、まずはヘルスケアや予防未病領域のところになってくるかなと思っています。
どういう世界でWizWeの価値を見せてくれるのか非常に楽しみ
森谷:ヘルスケア領域で、今後WizWeに期待するのはどんなところでしょうか?
藤本:まず、これまでこのようなサービスがなかったので、ヘルスケア領域でというよりは、これで何ができるのだろうという、想像の幅が広がっていないところに何を見せてくれるのかという大きな期待感があります。
それを前提として、ヘルスケア領域で期待しているのは、ダイエットや痛み緩和、重症化予防などのアプリやヘルスケアサービスはたくさんあり、そこの皆さんも行動変容を意識していて、大事だと思っているけれど手が付けられていないとなったときに、WizWeさんが既存のプロバイダーに加わることで大きなインパクトを生むであろうというところです。それをどれだけ示せるかが重要だと思っています。
例えば、薬と運動を組み合わせると相乗効果が少し増すという場合、薬だけで得られる効果が「5」であるとし、運動を加えることでそれが「7」になるとすると、この「2」の差が運動による効果と判断されてしまいます。既存のプロバイダーのサービスの効果が「5」で、行動変容が「2」となると、インパクトが生まれないと思われがちです。実際はすごいインパクトなのにそう思われてしまうというところを、マーケティングやブランディングなどのビジネス要素と合わせてどのように見せていくかが戦略として非常に面白いところですね。
ですから、どういう世界でその価値を見せてくれるのか、一緒に見せていけるようにできるのかを楽しみにしていますザ・ヘルスケアもいいのですが、保険などフィンテックに近い領域と相性がいいのではないかと思っています。
先ほどお話ししたインフラサービスで言うと、携帯の普及によりWi-Fi接続が進んだ場合でも、すぐに健康情報を見にいこうとはしないと思います。まずは携帯を使って情報を見ることを習慣化することから入って、習慣化したら健康に関するポップアップを出してみようなど、ヘルスケアを幅広く捉えることができるのが行動変容だと思っています。多くのプロバイダーは健康に直結することで解決しようとしているので、プラスアルファとしての素材が揃っているWizWeさんには、結果的に健康になっているよねというようなところを期待したいですね。
![](https://assets.st-note.com/img/1724822660863-dUr3oib6GT.jpg?width=1200)
森谷:ドライバーの健康増進の習慣化では、まさにウエアラブルデバイスをつけることの習慣化からスタートします。放っておくとつけないので、毎日つけるというところからサポートするのですが、そこは私たちならではだと思いますね。
藤本:そうですよね。私も医療者として自戒を込めて言いますが、よく私たちは第一歩を医療で解決しようとしてしまいます。例えば、子どもがゲームをし過ぎる問題に直面したとき、多くの医療者は「ゲームは体に悪い」と言って止めさせようとします。でも、行動変容はそうではなく、いろいろなアプローチを元に戦略を考える必要があります。
医療の現場では医学的なエビデンスとして正しいとされていても、実際にはこの方法で動かない人はかなりいると思っています。そのため、その人々をどう動かせるかというところが、ヘルスケアや医療につながっているという見せ方ができていくと大きな価値となり得ますよね。
森谷:そこまでいきたいですね。自然に行動してしまっているというところが目指すべき姿です。