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「タクシーで帰ればよかった」 始発のバスで郊外に行く乗客は少ない。乗っていたのは木実だけだ。僅かな出費を惜しんだことを、木実はバスの中で後悔した。 「しまった、昨夜は雪だった。もうぜんぜんついてないわ……」 バスを降り、いつものようにアパートに帰る近道に入って木実は思った。 昨夜は日付が変わった頃から吹雪いていて、近道の原っぱには新雪が十センチをはるかに越えて積もっている。雪雲は去って朝日が新雪を照らしていたが、この照り返しは眩しすぎて、朝帰りの木実は目を細めた