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【読書感想】名探偵のいけにえ 白井智之

面白かった。
「名探偵のいけにえ」ってそういうことか。と。

どんどん尻上がりに面白くなっていく作品だった。
M1風に言えば、88!89!87!89!89!92!95!(参考:2010年 ピースの得点)

中盤くらいまでなんでわざわざ舞台を南米にしたのか?なんで実在のしかも宗教絡んでややこしい人民協会の事件を舞台にしてるのか?とか色々設定のチョイスの疑問が湧く中で、なんとなく意図があるんだなあ程度にしか考えずに読み進めてたら、最後のシーンで理解した。

「九一八人の信者は、有森りり子が名探偵であるための生贄だったのだ。」

探偵が名探偵になるためにはどうしても解決した事件の規模=死者の数が必要で、大塒は有森りり子をせめて名探偵にさせてあげたかったから918人を殺した。
だから、なるべく人を巻き込める人民協会の事件をモデルにしたのか。
(大塒が英語に強いとか設定いれてきたのはそのためか)

エレファントヘッドの時も思ったけど、作者の白井さんは倫理観を捨てた人間が本当にしたいことを書くのが上手い。
それをしたらダメなんだけど、本当にしたいのはそれなんだよね、みたいな。

この作品も、おそらくあえて
・時系列を少し古めの時代設定
・メインは探偵と助手
・主人公も大柄な探偵

と割とクラシックなコテコテの探偵の設定で描かかれている。
ラストのシーンは普通探偵はこんなことしないだろうということをあえてやらせることで、「名探偵」とはじゃあ何なのかを考えさせられる作りになってるのが斬新だった。

なんとなく、我々の中にある「名探偵」という職に対する綺麗さというかスマートさのイメージの裏には実は夥しい数の醜い犠牲の上に成り立っていて、それに目を瞑らせなかったのがこの名探偵のいけにえという作品だった。

あとは、やっぱり同じ事件に対して多方面から推理を成立させてるのもすごい。
作中に出てくる事件は一つだけだけど、

・有森りり子の推理
・大塒の信者側からの推理
・大塒の外部からの推理

の3つの視点からの推理を両立させている。めちゃスゴ委員長。
僕は読んでる時になるべく予想したり推理をしないタイプなので、3つの推理の証明全部に「なるほど〜、賢けェ〜」って言ったし、その推理が否定される時は「うわ、全然ちがうじゃん!嘘つき!!」って言った。
結果それぞれの推理に違和感なくまんまと振り回されてしまった。

他のミステリー小説と違って、推理のロジックの美しさよりも「名探偵」についてマジでこれを言いたい、書きたい思いが伝わってくる、他とは一線を画す一冊だった。メチャおもろかったです。

あとは、読んでる時にりり子はずっと浜辺美波で再生されていたので改めて表紙のりり子を見たら全然違っててウケた。

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