「サニー・スポット」第3回
南に面した、幅一間高さ二メートルの引き戸のガラスから差し込む陽光を浴びて、高藤修一はうとうとと、うたた寝をしているようだった。杏子は食卓の椅子に座り、辺見にはベッドの傍らに一脚だけ移した同じ椅子を勧めた。
自分同様すっかり白くなった高藤の頭髪を見て、辺見は今さらながらに時の流れの速さをしみじみと感じつつ、その間に起きたいくつもの出来事を思い起こしていた。梅雨明け間近の少し蒸し暑い日だった。
Ⅱ
十九年前の八月三日、こだま銀行東京本店四階にあるリスク管理室の、ハラスメント対応専用アドレスに一通のメールが届いた。差出人は峰坂支店勤務の二十代後半の女性行員で、内容はセクシュアル・ハラスメントについての訴えである。
この事案は直ちにリスク管理室長によって、コンプライアンス室長と情報が共有され、両室長によってリスク統括部長委嘱取締役の吉住駿介に報告された。吉住は二人の室長と相談して、その日のうちに峰坂支店長植田亮太に調査を指示した。
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