夢の中の水族館に出会えた話。(旅エッセイ)
こんなことってないだろうか。
何回も夢の中で現れる景色。
その景色を夢で見るたび、「あそこはどこなんだろう。」と思っていた。
私が夢の中で何度も行っていた場所は、薄暗い水族館だった。大きな水槽の前には椅子があり、左手に長いスロープがあった。薄暗い水族館なので鮮明ではないが、そこが水族館であることは分かった。
夢の中では、夫と二人でいるのだが、夫とそんなところに行った覚えはない。夫と二人で、水族館には何回か行ったことがあるが、夢の中の水族館は、どこの水族館とも違っていた。
夢から覚めると、「いったいあれはどこなんだ?」と思うのだが、全く見当がつかない。そして、忘れた頃にまた現れる。夢の中の水族館。
きっと、脳が勝手に作り出している世界なんだと思っていた。
2023年1月
夫と福岡へ旅行に行くこととなり、母の実家が福岡だったので、私は久しぶりに昔行ったことのある水族館に行きたくなった。
「マリンワールド海の中道」。「マリンワールド」は聞いたことがあるが、昔から「海の中道」もついていたっけな?
私も小学生の頃に行ったきりなので、記憶が定かではないが、入り口に行くまでの屋外の広場に、見覚えのある2体のイルカの像が、今も、当時のまま設置されていた。
この像のことは覚えている。なぜなら、家にこのイルカの像の前で撮った写真があるからだ。あれからもう、25年も経っている。
水族館へは、オープンと同時に行ったのだが、既に行列が出来ていた。
館内に入ると、そこは、全く見覚えのない景色だった。改装してあるらしく、とてもキレイだった。
前に、私が訪れた頃から、もう25年も経っている。改装していても、続けていてくれるだけで、ありがとう。と思った。
今はもういない、母や、母方の祖母、親せきや家族と訪れた、私の大切な思い出の場所。私から離れた場所で、今も尚、存在し続けているということに嬉しさがこみ上げた。
順序通り進んでいくにつれ、段々と水族館らしい薄暗さが出てきた。
2階の大水槽の前に来た時、私の胸がドキンと高鳴り、思わず立ちすくんでしまった。
「この景色、何回も見たことある。」
25年前に訪れたとはいえ、自分の中では館内のことなど、何一つ覚えちゃいないと思っていたのだが、脳内にはしっかり焼き付いていたのだ。
夢の中で見た景色と同じ、大水槽の前。左手に長いスロープ。辺りを見渡すと、柵の様な手すりがあり、椅子もある。
ここに来て、全てが私の中で一致した。
夢の中でぼやけていた、薄暗い水族館も、現実のものとなると、輪郭がはっきりと現れた。
「夢に何回も現れていたのは、ここだったんだ。」
それからは、水槽の中の魚たちを前に、亡くなった母のことを考えていた。お母さんは、私に、ここにもう一度来て欲しかったのかな?と思ったり、何か伝えたいことがあるのかな?と思ったりもした。
そんなセンチメンタルな私は、夫とアシカショーを見るためにショープールへと向かった。
既に客席は満員だったため、沢山の人が立ち見の状態であった。
私も何とか、前の人達の肩の隙間から、プールを見ることが出来た。
イルカやアシカたちは、トレーナーさんたちの言う事をちゃんと聞き、見事なショーを繰り広げる。
なぜだろう。胸がいっぱいになってきた。
イルカやアシカたちと、トレーナーさんとの絆に胸を打たれた。動物と人間とがお互いを理解し合うまでには、きっと、とんでもない程の時間と労力があったに違いない。
イルカがジャンプすれば、観客は割れんばかりの拍手をし、アシカが鳴けば拍手をした。なんなんだ。この会場を包み込む一体感は,,,。
センチメンタルな私の目の前で、繰り広げられる感動のショー。
気づいたら、人混みの中で、なりふり構わず号泣していた。
周りには、子供たちを抱っこしたりおんぶした親御さん達が沢山いた。一部の人は、私が鳴いていることに気づき、少し視線を感じたが、こっちはもう、それどころではなかった。
夫もショーを見て感動しているようだった。
この旅から、1年半が経とうとしているが、もう、あの水族館は私の夢の中に現れることはなくなった,,,。