JUSTICE or EVIL

 ダニーは腰を上げた。襟を正し、息を吐く。
 若き弁護士が特例として囚人に代わり、仮釈放を訴えかける。

「皆さんはこう思っているでしょう。なぜこの男は、邪悪な宇宙人の肩なんか持つのだろうと。なぜなら、私は彼が悪人ではないと信じているからです。確かに彼は、60万の地球人を虐殺しました。しかしそれは300年も昔の話です。なによりあれは事故だった。彼にとっての軽い挨拶が、不運にも多くの人間を熱滅させてしまった……それを深く後悔しているからこそ、彼は終身刑三回分の期間、服役したのです。その気になれば指先一つでムショを吹き飛ばし、自由になることもできたのに……所内で『ショーシャンクの空に』や『プリズンブレイク』を観ても、彼は脱走しなかったのですよ」

「ありゃどっちもケッサクだったな」
 隣で座する宇宙人――ヴィラーフの言に、ダニーは咳払いをした。

「彼は態度も口も悪いですが、300年地球で生きる内に誰よりも地球を愛するようになりました。今や彼は、スティーヴン・キング作品と80年代の音楽シーンと、そしてニッポンのマンガを好む“地球人”なのです。誰よりも長い時間罪を償った彼を……そろそろ赦してもいいんじゃないでしょうか」

 ダニーが椅子に腰を下ろす。
 やるだけやった。これで今後のキャリアが決まる。
 駆け出しの弁護士が宇宙の破壊神を自由にしたとあれば、一気に仕事が舞い込むだろう。

 仮釈放委員会が答えを出すまでさほど時間はかからなかった。

「……ヴィラーフ氏の仮釈放を認めます」

「よし! やっ――」

「加えて、ダニー・ベイツ氏を身元引き受け人に任命します」

「     え」

「これにて閉会」

 委員会の面々が早々にその場を後にする。

 脳内処理が追いつかないダニーの肩に、ヴィラーフの手が置かれた。

「よー、これから世話んなるみてーだな。よろしく頼むぜ、ダチ公」


「――なっ、なっ! ぬゎんだってえええぇぇぇ!?」


 つづく

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