オフコース アルバム「over」その8 「言葉にできない」
オフコースのアルバム「over」の8曲めは「言葉にできない」です。この曲は私などが語る言葉も無いくらい有名ですよね。でも、そこは枯れ木も山の賑わいの言葉もありますから私なりの感想を少しだけ。
「哀しいくらい」「言葉にできない」「心はなれて」の三つの作品を私は「小田三部作」あるいは「over三部作」と呼んだのですが、この「言葉にできない」は三部作の本編に相当するものです。
アルバム「over」の終幕のプロローグ(序章)が「哀しいくらい」でエピローグ(終章)が「心はなれて」です。
それではアルバム「over」の終幕の本編である「言葉にできない」をみていきましょう。
この作品は序破急の三部構成になっています。
序「哀しくて」
♪
終わる筈のない愛が途絶えた
いのち尽きてゆくように
ちがう きっとちがう
心が叫んでる
♪
ここはもう鈴木さんとの別れを歌っています。小田さんにとっては、こういう結末を迎えることは考えてもいなかったでしょう。
♪
ひとりでは生きてゆけなくて
また 誰れかを愛している
こころ哀しくて言葉にできない
♪
「鈴木さんの抜けたオフコースは考えられない」小田さんはそう思いオフコースの解散まで考えたみたいです。しかし、このままオフコースを続けていく事も頭をよぎったことでしょう。そんな事を考えてしまう自分があわれであり哀しい。
「哀しいくらい」でも、望みはないけれども何とかなるかもという一縷の望みを込めて「♪顔をあげて目を閉じて♪」と歌っていました。そういう哀れみを込めて「悲しい」ではなく「哀しい」と表現したのでしょう。
破「くやしくて」
♪
せつない嘘をついては
いいわけをのみこんで
果たせぬあの頃の夢はもう消えた♪
オフコースがバンドとなった時、周りのスタッフは「今は小田さんに焦点を当ててるけど、次はヤスさん(鈴木さん)で、その次は松尾…そんな感じでやっていく」と言ってたようですが、結果としては小田さんの色がかなり強くなってしまいました。一度ついたイメージを払拭するのは並大抵のことではありません。鈴木さんとしてはオフコースを脱退するしかありませんでした。小田さんやスタッフの言葉は結果的に「せつない嘘」となってしまいました。その嘘に対しての言い訳も言葉にできなかったのです。
オフコース結成当初、解散のことなど考えていなかったでしょう。漠然とですが、ずっと一緒にやっていくと思っていたことでしょう。それも消えてしまったのです。
♪
誰のせいでもない
自分がちいさすぎるから
それがくやしくて言葉にできない♪
こうなったのはスタッフが原因でもないし鈴木さんが原因でもない。小田さん自身でもない。それぞれオフコースの為に最善を尽くした結果でしょう。ただ、自分がそれを上手くまとめきれなかったという後悔。
急「うれしくて」
♪
もう今は
あなたに会えて
ほんとうによかった
嬉しくて嬉しくて
言葉にできない
La la la, la la la, la la la la, la la la
La la la, la la la
言葉にできない
あなたに会えて ooh
言葉にできない
今あなたに会えて ooh
♪
ここで小田さんの感情は急展開します。原点に立ち帰るんですよね。
哀しい気持ち、悔しい気持ち。そういう感情はあるけど、それよりも今まで音楽活動を続けてこれたのは鈴木さんとの出会いがあったから、と。
小学生の時、電車の中で出会って、中学高校と一緒に過ごして、大学の時は東京と仙台と離れたけど休みのたびに鈴木さんがブルーバードに楽器をつめこんで仙台までやってきた。卒業後も鈴木さんがまず音楽の道に進んだ。
小田さんとしては鈴木さんの存在抜きには音楽活動は考えられなかったでしょう。そういう鈴木さんとの出会いは喜び以外のなにものでもないでしょう。
そう、この原点に立ち帰った時、小田さんの感情は爆発するんですよね。
ボーカリスト小田和正が最後に叫ぶのです。鈴木さんに対して最大の感謝を込めてシャウトするのです。
♪今あなたに会えて♪
と。
オフコース「over」の終幕三部作の本編がこれまた序破急の三部構成となっており建築家小田和正の美しい建造物を見ているかのようです。
更に、この曲の凄いところは、こういう当時のオフコースの状況を抜きにしても良い曲なんですよね。今だに歌い継がれる名曲です。小田さんの想いが純化され普遍性を帯びているからでしょうか…