オフコース『YES-YES-YES』
この曲も有名な曲ですね。
1982年6月30日のオフコース武道館10日間公演が終った後、会場の撤収作業が行われる中で会場に残ったファンが『YES-YES-YES』のテープに合わせて大合唱をした伝説。
『YES-YES-YES』のレコードから聴こえる心霊現象。
これについてはこちらが詳しいです↓
こういう逸話を持った曲なので私などが語るまでもないといったところですが、人それぞれその人なりの思いがあるでしょうから、私なりの感想をひとつ。
まずはこの曲を巡る時系列を見てみると、
1982年1月22日
「1982 OFF COURSE Concert “over”」ツアー開始
1982年2月1日
シングル「言葉にできない/君におくる歌」発売
1982年6月10日
シングル「YES-YES-YES/メインストリートをつっ走れ」発売
1982年6月15日
武道館10日間公演開始
という流れです。これを見ると、全国ツアーをやりながらのシングルの発売というタイトなスケジュールだったのが分かります。
特にシングル「YES-YES-YES/メインストリートをつっ走れ」は当初の予定にはなかった感じですよね。武道館公演の直前に間に合わせたという小田さんやメンバーの強い意思が伝わってきます。
それで曲の内容は『壮大さと力強さ』です。これまでのオフコースにはなかった『壮大さと力強さ』に溢れていると私は感じました。
当時のオフコースは解散の噂が週刊誌を賑わしており、内部的には鈴木さんのオフコース脱退が決まっていたわけです。鈴木さんの脱退に伴いオフコース自体が解散するかどうか揺れ動いていた状況で小田さんが発したメッセージが『YES-YES-YES』だったのです。
君が思うよりきっと僕は君が好きで
でも君はいつもそんな顔して
イントロがなく唐突に始まります。このイントロがないのがいいです。小田さんの本音というか「俺はこう思ってるんだ。聞いてくれ」という迷いのない感じが伝わります。名曲『Yes-No 』の迷いや戸惑いを感じさせるイントロも最高でしたが、それと匹敵するくらいの出だしです。
この歌詞の君は『鈴木さん』でしょうね。小田さんは鈴木さんを必要としていたのでしょうが、鈴木さんは本音はともかく表面的には『音楽職人』として自分の音楽を追い続ける姿勢だった感じです。小田さんの片思いですね。
あの頃の僕はきっとどうかしていたんだね
なくすものは何もない 君のほかには
ここは、小田さんがオフコースのリーダーとして鈴木さんの感情よりバンド全体を優先させてしまったことの懺悔です。
しかし、小田さんは言い切ります。色々な失敗もあっただろうけど、全てひっくるめて全肯定すると!
YES-YES-YES
消えないうちに愛を 預けておくから
せつないときには 開けてみればいい
何処に預けるのか?
それはこの『YES-YES-YES』という曲だと私は思います。だから、せつなくなったら『YES-YES-YES』を聴いてと。
そして全肯定の YES-YES-YES
私としては長年不思議だったのが次の歌詞でした。
君のきらいな東京も 秋はすてきな街
でも 大切なことはふたりでいること
この歌詞の意味がいまいち理解できませんでした。なんだが唐突に出てきた感じがしました。このシングルが発表されたのは6月で初夏だし…
何故東京がきらいなんだろう?
何故そのきらいな東京でも秋はすてきになるのだろう?
何故「でも 大切なことはふたりでいること」なのだろう?
後年、ラジオで鈴木さんが小田さんへ送ったメッセージを聴いて自分なりに納得できました。小田さんや鈴木さんにとっては自然な感情だったのでしょう。
鈴木さんが数ある小田さんの曲の中からリクエストしたのが『ひとりで生きてゆければ』でした。この曲にでてくる『この街』は東京です。それは2番の歌詞に
東京はたそがれて ほんの少しだけ優しくみえる
から、分かります。そして、この『ひとりで生きてゆければ』を発表した頃は、小田さんも鈴木さんも東京という街をとても厳しく冷たく感じていたのでしょう。でも、穏やかで紅葉に包まれた秋は『ほんの少しだけ優しく』みえたのですね。季節の黄昏は秋ですしね。
小田さんは『ひとりで生きてゆければ』は本音を歌ったと語っています。でも、後から思い返すと鈴木さんとふたりでいたから乗り切れたと感じたはずです。だから、
君のきらいな東京も 秋はすてきな街
でも 大切なことはふたりでいること
あれだけ厳しく冷たく感じた東京という街も今や武道館10日間公演ができるまでになったのです。小田さんからすれば、その思いを一番分かち合いたかったのが鈴木さんだったでしょう。
そして、そんな小田さんの思いを鈴木さんも共感していたんですね。だから『ひとりで生きてゆければ』を鈴木さんはリクエストし、そのリクエストに対して小田さんも感慨深げだったのですね。やはり小田さんと鈴木さんは切っても切れない相棒なのでしょう。
この『秋はすてきな街』の部分の音楽的な解説は佐藤竹善がしております↓
さて、ここから『YES-YES-YES』は凄まじく高揚していきます。鈴木さんはもちろん、他のオフコースメンバー、そして、ファンもひっくるめて小田さんは歌います。
僕のゆくところへ
あなたを連れてゆくよ
手を離さないで
圧倒的な力強さです。壮大な世界へと巻き込んでいく高揚感です。小田さんが武道館10日間公演前にこのシングルを発表したかった思いが伝わってきます。その思いは確実にファンに届き、公演終了後の伝説の大合唱が現出したのでしょう。
私も今まで様々な失敗をしてきましたが、この曲を聴くたびに「それも経験、全肯定、YES-YES-YES」だと思えます。
YES-YES-YES