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オフコース アルバム「over」その9 「心 はなれて」

オフコースのアルバム「over」も残すところあと一曲となってしまいました。「心 はなれて」です。五人時代のオフコースのファンである私にとって、この曲は哀しすぎます。


出会って 愛して
ふたりだけはこんなふうに...
あゝあの頃
まだ若かったね

あなたがいたから
立ち上がれたこともあった
もう遅すぎる
そこへは戻れない

いちばん哀しかった
あの日さえもうかがやいている
やがてひとり窓の外は冬

ふたりで追いかけた
青い日々がこぼれてゆく
やがてひとり窓の外は冬

心はなれて
あなたのこと見えなくなる
もうここから
先へはゆけないね

「心 はなれて」(Instrumental)で始まったアルバム「over」の最後を飾る「心 はなれて」です。なんと哀しく儚く美しい曲でしょうか。陽炎のような曲です。

印象的なフレーズは

♪やがてひとり♪

そうなんです。ひとりなんです。この曲は小田さんの独唱なんですよね。

「over」終幕三部作の一つ目の「哀しいくらい」はコーラスがありました。二つ目の「言葉にできない」は少ないとはいえコーラスがありました。

オフコースと言えば、その美しいコーラスが象徴と言ってもよいでしょう。前のオリジナルアルバム「We are」の最後の曲は、そのコーラスの魅力がいかんなく発揮された「きかせて」でした。「over」では、そのコーラスの割合が徐々に減っていって最後は小田さんの独唱です。オフコースから一人の小田和正へと還って行く様はなんと孤独感に溢れているのでしょうか。

さらに

♪窓の外は冬♪

冬という季節は小田さんにとって忘れられない哀しい季節だと言えるかもしれませんね。

79年の冬。オフコースの飛躍となり同時に終わりの始まりともなった「さよなら」が発表された季節。

80年の冬。盟友である鈴木さんがオフコースからの脱退を表明した季節。小田さんにとっては「いちばん哀しかったあの日」なのでしょうね。

♪やがてひとり 窓の外は冬♪

このフレーズには小田さんの万感の想いが込められていると思います。

それでは、もう少し詳しく「心 はなれて」をみていきましょう。

この作品は起承転結の四部構成ですね。


出会って 愛して
ふたりだけはこんなふうに...
あゝあの頃
まだ若かったね

「言葉にできない」に呼応している内容ですね。「♪終わるはずのない愛がとだえた♪」小田さんにしても鈴木さんにしてもオフコースを結成した若き日に、このような終わりを迎えることは思ってもいなかったでしょう。


あなたがいたから
立ち上がれたこともあった
もう遅すぎる
そこへは戻れない

ここも「言葉にできない」の「♪うれしくて♪」という感謝のところと呼応しています。小田さんにとっては鈴木さんという存在があったからこそ今までやってこれたという想いが強かったでしょう。

でも、そこへは戻れないんですよね。悲しすぎます。


いちばん哀しかった
あの日さえもうかがやいている
やがてひとり窓の外は冬

ふたりで追いかけた
青い日々がこぼれてゆく
やがてひとり窓の外は冬

「あの日」とは、前にも述べましたが、鈴木さんがオフコースからの脱退を表明した日だと思われます。小田さんにとっては音楽活動を始めてから一番悲しかった日でしょう。その日さえ今となっては輝きはじめていると歌っています。

やはり、これは「言葉にできない」の「♪あなたに会えて本当によかった♪」という想いがあるからこその言葉でしょう。哀しさや悔しさを越えて(over)、その上での感謝の心なのでしょう。

だから武道館ライブで「言葉にできない」の時の背景に無数のひまわりがスクリーンに映されたと同時に「We are」「over」「Thank you」の文字が映されたのでしょう。

そして、鈴木さんと二人でやってきた青春の日々がこぼれてゆくんですよね。「消えてゆく」のではなく「こぼれてゆく」と表現されているところが美しくも儚い感じがします。大切に両手で抱えていた思い出たちがポロポロとこぼれ落ちていく、拾おうとしても拾えない、そんなイメージですね。


心 はなれて
あなたのこと見えなくなる
もうここから先へはゆけないね

この後に響くストリングス。音楽の知識が無いのでよく分かりませんが、トレモロという奏法なのでしょうか。小田さんの無念さ、断腸の思い、そんなふうに聴こえてきます。

二人時代の美しいハーモニー、バンド時代の厚みをましたサウンド。しかし、最後は小田さんの独唱で終わります。なんだか小田さんの長い旅路がここで一旦終わったかのような感じがします。


もうここから先へはゆけないね

このアルバム「over」が五人のオフコースの実質的な最後となりました。

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