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オフコース&小田和正「雨の降る日に」その1 赤いパラソル

小田さんの詩は言葉数が少なくて、なかなか解釈が難しい曲が多いです。でも、その分、人それぞれのイメージをそれぞれ広げることができるので、その人なりの世界観を持てるという意味で味わい深いものがあります。

アルバム「ワインの匂い」のA面の最初の曲は「雨の降る日に」です。3分に足らない短い作品で、短い分、解釈が難しいです。でも、想像を巡らせてみると味わい深くて凝った作りを楽しめる作品だと思います。

雨の降る日に

イントロで、雨にぬれた車道をクルマが走っていく効果音が流れます。これは小田さんが実際にクルマを走らせて録音したとのことで、いきなり凝った演出がされています。


人はみなだれでも
流れる時の中で

いくつもの別れに涙する 
だけどあなたはひとり

赤いパラソルには
あなたが似合う
 
雨の降る日はいつでも 
時はさかのぼる

あなたが好きだから
静かな夜は 

電話の音にいまでも 
ときめいてしまう

やさしさがたりない 
こころが見えない 

季節はずれの寒さが 
この胸に滲みる

わずかこれだけの詩なんですね。うーん、短い。

この中で

♪だけどあなたはひとり♪

の部分ですが、「だけど」という逆接の接続詞が使われています。いきなり様々な解釈ができますね。

「人はいくつもの別れに涙するけど、あなたはずっとひとりのままだよね」

「人はいくつもの別れに涙するけど、あなたはひとりで堪えて涙しないよね」

「人はいくつもの別れに涙するけど、また他の誰かを好きになったりする。でも、あなたはひとりのままだよね」

色々と解釈できてしまいます。うーん、難しい。ここでは解釈は一旦保留します。

で、次にいきなり赤いパラソルが出てきます。唐突ですね。しかも「あなたには赤いパラソルが似合う」ではなく「赤いパラソルにはあなたが似合う」となってます。「あなた」ではなく「赤いパラソル」に焦点が当てられていますね。これまた不思議な表現です。赤は色の中でも鮮明で目立つ色です。小田さんは、ここでは赤という色を際立たせたかった感じです。つまり、聴く人に赤色を印象付けたかったのでしょうか。

で、その次が


雨の降る日はいつでも 
時はさかのぼる

これですね。これがキーセンテンスだと思います。つまり、このセンテンスより前は過去の回想をしていると解釈していいと思います。

イントロのクルマの効果音で雨が降っていることを強調してるわけです。更に主人公が外にいることも表現しているわけです。この主人公は、おそらく仕事帰りで雨の中を帰宅しているのでしょう。

そして、帰宅しながら過去を回想しているのです。思い出全体の色が、例えば、セピア色だとしたら、主人公の記憶の中で鮮明に残っているのは、あなたがさしていた傘の赤い色というわけです。だから「赤いパラソルには」と強調されているのですね。

そして、あなたは辛い別れをした後に私が差し伸べた手を最後までとらなかったのです。だから「だけどあなたはひとり」なのです。
このように前半は過去の回想だから論理的ではないのです。思い出されるままに並べられている感じがします。


雨の降る日はいつでも 
時はさかのぼる

このキーセンテンス以降は現実です。つまり、主人公は家にたどり着いたわけです。そして、雨の音を聞きながら現在の心境を述べていく感じです。だから、内容も前半に比べれば分かりやすいですね。


あなたが好きだから
静かな夜は 
電話の音にいまでも 
ときめいてしまう

今日もあなたからの電話を待っているのです。今のようにスマホなんてない時代ですからね。当時、電話といえば固定電話か公衆電話でしたからね。それに固定電話って鳴る直前なんとなく分かったりするんですよね。懐しいです。

まぁ固定電話の話しはいいとして、窓の外は雨の音しか聞こえない。それくらいの静かな夜ということですね。

雨の音がしていたら静かではない、という人もいるかもしれませんが、芭蕉の「閑さや岩にしみ入る蝉の声」に象徴されるように、ここでは精神世界観としての静けさなのでしょう。それだけ主人公は自分の世界、つまりは彼女のことだけを想っている状況ですね。窓の外は雨の音しかしていないが、自分の心の内は静寂で彼女の思い出だけが浮かんでくる、そんな感じでしょう。


やさしさがたりない 
こころが見えない 
季節はずれの寒さが 
この胸に滲みる

辛い失恋をしたあなたの事が好きだけど、私の気持ちがまだ足りなくて、あなたを振り向かせることが出来なかった。あなたの心がまだちゃんと見えていなかった。だから、お互いに気持ちはあるけど、お互い独りのまま。今日みたいな寒い日は独りでいると寒さが一層身にしみる。

こう言う感じでしょうか。

こんな感じで解釈すると、冒頭のクルマの効果音はなくてはならないものだと思えてきますね。

雨の中を主人公が歩く。背後からきたクルマが主人公の横を通り過ぎる。その背後からの音は過去の思い出が追いかけてきたよう。

そして、回想の歌詞。


雨の降る日はいつでも 
時はさかのぼる

そして、今現在の想い。

このような情景が細やかに演出されています。

こんな短い曲の中にもこれだけの細かい配慮が散りばめられているんですね。そして、こうして細かく分析してみると、この曲の位置付けがより鮮明になったような気がします。それについては次回ということで。

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