オフコース&小田和正「愛を止めないで」その2 白馬の騎士 「あなたのすべて」

オフコースの「愛を止めないで」は、主人公の男性目線からの曲です。その内容は、失恋で心を閉ざした彼女の心をもう一度開いてもらおうと主人公が頑張るというものです。

そして

「僕の人生が二つに分かれてる
その一つが真っ直ぐに…」

で曲が終わってしまったので、その後、この二人はどうなったのか気になります、っていうところで前回は終わりました。

「愛を止めないで」はこのように男性目線の曲ですが、実は、この女性の目線からの曲があるんですよね。それが「あなたのすべて」だと私は思っています。今回は「あなたのすべて」と「愛を止めないで」の関係性についてみていきましょう。

あなたのすべて

「あなたのすべて」は「愛を止めないで」の半年前の78年7月20日に14枚目のシングルとして発表された作品です。作詞作曲は小田さんです。その内容がもう「愛を止めないで」の彼女そのものなんですよね。

「まるで子どものように
涙がこぼれた
せつなくて せつなくて 
ひとり」

「去りゆく人 こよなく
信じていたのに
あの人は あゝ私から
消えていった」

このように信じていた「あの人」の突然の裏切り。そういう状況があったのですね。それで彼女は人間不信に陥ります。

「失くせるものはなくなればいい
愛せるものはなにもいらない」

ここまで言い切るくらい彼女は傷ついてしまっています。

ここで(涙かれたころ)と鈴木さんのコーラスが入ります。

これによって場面転換が図られていますね。うーんっと思わず唸ってしまう演出です。

「緑色の季節を背中に
白い服に あゝ包まれて
あなたがいた」

場面転換後にヒーローの登場です。「愛を止めないで」の主人公の男が彼女の前に現れます。

彼女が失恋したのはおそらく冬。桜が散るように(涙かれたころ)の春が過ぎ、新緑の季節に男が彼女の目の前に現れたのです。それも白い服で。まさに彼女にとっては白馬の騎士だったことでしょう。

男は心配のあまり、彼女の手を取って話しかけます。

「『そんな眼をして何かあったの』
あなたは手を取って
私を見つめてた」

この様子からみて、彼女と男は以前からの知り合いでしょう。それもかなり親しい間柄ですね。初対面の場合、いきなり手を取ってなんてできませんからね。彼女は「あの人」のことを男に相談していたに違いありません。

(愛のはじまる日)と鈴木さんのコーラス。再びの場面転換ですね。なんか演劇の舞台を観ているかのようです。

間奏のとき、話しはじめる彼女とそれを静かに聞いてる男の様子が浮かびます。この辺の演出も凄いと思います。だから、間奏後の歌詞が次のフレーズなんですね。

「私の言葉をやさしく聞いてる
あなたの微笑みは甘い喜び」

彼女は「あの人」の裏切りをポツリポツリと語ります。男はウンウンと頷いて聞いています。

ここで三度目の場面転換ですが、今回は小田さんの声なんですよね。

(ほらみえるだろう)

つまり、彼女の話しをやさしく聞いてた男の声ですね。今までは彼女の話を聞いていただけですが、ここで男は初めて彼女に語りかけたわけです。

「ほらみえるだろう
新緑が目に眩しい 
爽やかな風も吹いているよ
部屋から出ておいで
僕と一緒に」

という感じでしょう。

それで彼女も気持ちを切り替えたのですね。

「風と光とあなたが心のままに
私の中できらめいている
あなたのすべて 
今たぐいなきもの」

こうして、この二人は新しい愛へと歩み始めたのです。

しかし、場面転換の使い分けとか、なんて緻密な構成なんでしょう。小田さんにしても鈴木さんにしても、バリバリの理数系です。だからこそ為せる技かもしれません。

この「あなたのすべて」は何十年も前から聴いていたのですが、いまいち解釈がし辛い曲でした。でも、「愛を止めないで」と重ね合わせると、傷ついた女性とそこから救い出そうとする男の物語が浮かんできました。

「あなたのすべて」は二人のオフコース最後のアルバム「FAIRWAY」に収録されています。「愛を止めないで」は五人のオフコース最初のアルバム「Three and Two」収録です。ちょうどオフコースが変化した辺りで、それに惑わされたかもしれません。更に「愛を止めないで」の完成度が高くて、インパクトが凄くて「あなたのすべて」の存在感が私の中で薄れてしまっていたのかもしれません。「あなたのすべて」と「愛を止めないで」の関係性について、これまでは全く思いもしなかったです。

何十年も聴き馴染んだ曲ですが、今までとは違う情景をみせてくれるとは面白いものですね。

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