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オフコース 「さよなら」

オフコースのアルバム「JUNKTION」や「FAIRWAY」「Three and Two」などの楽曲の感想などを書いてきたのですが、その後記事が書けなくなりました。というのも、これらのアルバムの後の楽曲をたどることは、オフコースの終焉への道をたどることになり、オフコースの一ファンとして心が痛かったのです。

でも、オフコースを語る上で1979年以降の作品群を無視するわけにはまいりません。心の痛みは私個人のものであり、オフコースを知らない方々にオフコースを知っていただくためには、やはり、1979年以降の作品群について触れていく必要がありますよね。

というわけで、今回はオフコースの名をメジャーへと押し上げた1979年リリースの名曲「さよなら」について考察していきます。

「さよなら」

この「さよなら」はリリース当初から聴きすぎるくらい聴いている曲で、近頃ではスマホでランダムに曲を流していて「さよなら」が流れると思わず飛ばしてしまうという、私にとってはそんな位置づけの曲です。

で、この曲を聴くたびに思うことは、なんて緻密な構造の曲なんだろうっていうことです。理系の、建築学出身の小田さんらしい作品です。

♪もう終わりだね・・・♪

というセリフで始まります。このセリフ、主人公の男性が言ったのか、それともその彼女が言ったのか謎です。どちらでも解釈できるんですよね。ここでは主人公の彼が彼女に言ったと仮定します。

その言葉にショックを受けた彼女は体から力が抜けていくようです。彼の目には、いつもより小さく見える彼女の姿。その姿に彼は思わず彼女を抱きしめたくなります。彼は彼女の方へ足を踏み出そうとしたはずです。でも、彼女の口から彼の思いを遮るかのように言葉がこぼれます。

♪私は泣かないから、このまま一人にして・・・♪

彼は凍りついたように動きを止めます。「泣かないから」と言って涙をこぼされたら、彼は呆然とするしかないでしょうね。

呆然と立ち尽くす彼の脳裏に蘇る言葉。

♪僕らは自由だね・・・♪

別れるという事は、お互いの関係性を解消するという事で、それはお互いに縛られないで自由になること意味でもあります。いつか言ったその言葉がこの別れの場面を表現していたなんて。

たった3つの短いセリフと描写が映像となって迫ってくる感じです。そして、この3つのセリフとそれに伴うそれぞれ3つのシーンを打ち消すかのような「さよなら」3連発。

うーん、よくこんな詞が書けるものですね。感動するばかりです。凄すぎです。小田さん自身も「ヒットを意識した」と語ってますが、かなり推敲をかさねたんでしょうね。

1番では別れの情景そのものを描写しましたが、2番では未来と過去を描きます。

♪僕の代わりに君が今日は誰かの胸に眠るかもしれない♪

この別れの時点では、現れてもいない未来の誰かに嫉妬する彼。別れた後、未来のいずれかの時点では彼女は自分とは違う誰かを愛しているはず。

♪僕が照れるから誰も見ていない道を 寄り添い歩ける寒い日が君は好きだった♪

これは言いかえると、寒い冬の日以外も彼女の気持ちに応えれば良かったという後悔でしょう。春の日も、夏の日も、秋の日も、冬と同じように自分の気持ちに正直であれば良かった。そんな主人公の過去に対する思いです。

そして、彼女と自分との、過去、現在、未来の世界線に別れを告げる「さよなら3連発」

で、最後の締めがまた凄いです。

♪外は今日も雨 やがて雪になって 僕らの心の中に降り積もるだろう♪

雨から雪になるって心の傷が癒やされていく感じですが、その心の傷は消えることはない。心の傷は雪に覆われて凍結されるかもしれない。でも、何かのキッカケでその雪が溶けて古傷がむき出しになる可能性もありえます。彼女を幸せにできなかったという心の傷は、彼がずっと付き合っていかなければならないものなんでしょう。心の奥底にしまっておかなければならないものなのでしょうね。

しかし、微かに光も感じるんです。それが「白い冬」って言葉。白いって雪のことですが、再出発も表しているのかなって感じます。心の中に降り積もる雪は白いキャンバスとなって、彼女にとっても彼にとっても心の持ちようで、どんな絵も描けるわけですから。お互い傷を持ちながらも歩きだす。それが人生なのでしょうね。

こうして見ると、この「さよなら」は、緻密に計算された美しい建築物みたいです。無駄やスキがないんですよね。聴けば聴くほど味わい深い名曲です。だから、僕らの心にも降り積もって何時までも残るのかもしれません。

完成度の高い名曲ですよね。この曲でオフコースはメジャーな存在になりました。でも、逆にオフコースのイメージを固定してしまったということでもあるんですよね。自由に創作活動をしていた鈴木さんの立ち位置が難しくなっていくのです。今となってはオフコースの解散に向けての原点ともなったこともあり、個人的にはなんとなく聴くのを避けてしまう、なんとも不思議な曲なんですよね。私にとっては。

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