Sへの手紙
~子供達の夢のために〜
《プロローグ》
「兄ちゃん、ちょっと相談したいことが…」
「お〜どした?何かあったか?」
突然、弟の富夫からの電話。
「何か訳ありな感じだな。
よし、久し振りだから飯でも
食べながら話を聞くよ?
焼肉でいいよな?」
どこにでもある日常的な出来事から
それは始まった。
ここの所の世界的な異常気象のせいか、
今年の仙台市は春と呼ぶには、
カレンダーを後2枚は捲らなければ
ならないのに、皮膚までも
脱ぎたくなる程の暑さだった。
成田からの乗り継ぎで仙台空港に
降り立った男は、周囲よりも
頭がひとつ飛び出している程、
背が高い。
どことなく俳優のTを彷彿とさせる。
そんな男は
" そういえば、俺の旅立ちの日も
珍しく、こんな暑さだったな "
と、苦笑いしながら、
つい何時間前まで乗っていた
JAL17便LAー成田行の機内を
思い出していた。
「奥様からの御手紙ですか?」
コーヒーのサービスで機内を
回っているCAが声をかけてきた。
「申し訳ございませんでした、
余計な事をお聞き……」
「いや、気にしないで下さい。
あいにくと奥さんからじゃないけど、
同じ位に大切な人からの
モノには違いないから」
高校生の頃や現役時代の頃と全く同じで
変わらない、周囲にいる人々が
和やかで、そのうえ、幸せな気分に
包まれてしまう不思議な魅力を持った
笑顔で答えた。
2 2歳でメジャーリーグに挑戦。
全て順風満帆に来た訳ではなかった。
途中右ヒジにトミージョン手術を受けた
時には心が折れかかった。
その時から正直自分でも
ここまで出来るとは
思ってなかった。
ただただ楽しかった。
投げて、打って、走って。
野球の原点。
メジャー相手に
思い切り投げ込んで、
思い切り振り回して、
思い切り走り回る。
自分自身の原点。
ただただ、楽しくて仕方なかった。
野球が面白く、こんな楽しい
日々が、ずっと続けば良いのにと
祈った事もあった。
機内でのCAとのやり取りを
また何度目かに思い出し、苦笑いを
浮かべながらながら、
リムジンバスを待つ行列に向かって
キャリーケースを転がしていった。
物語はこの日より
20数年後の出来事である。
※この物語はフィクションですが、登場する人物、団体など一部の名称をオマージュとして
使用させて頂いています。