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Sへの手紙⑸

《二回裏》

野球場と呼ぶには広さが全然足りず、
広場というには幾分大きな、
そう「グラウンド」が
一番しっくり来るかも知れない。

炎天下の中、子供達が野球を楽しんでる。
ただ一人の男の子だけは
ボールを片手に皆のプレーを
見ているだけだった。

「こんにちわ、こんにちわ
 いらっしゃいますか?」

何度か呼び鈴を押してみたが返答がない。

「留守みたいですね?」

「う〜ん、空振りかァ」

朝から柳田の中にあるモヤモヤの原因は
これだったのだろうか?
いや、
こんな事は過去に何度も経験している。
しかし何だろう、本当にこのスッキリと
しない胸の中は。

隣のグラウンドで遊んでいる子供達が
ここの住人について何か知っているかも
しれないと思い、
一歩踏み出した柳田は、
ボールを手に佇んでいる少年に気付いた。

「ちょっと、君。
 ここに住んでる人の事で
 聞きたいんだけど…
 あっ、おい、ちょっと
 ちょっと!」

不意に柳田に声を掛けられた
だけではないだろう、
弾かれたように少年は走り去ってしまった。

「何なんだ、全く…」

「どうします、先輩?」

柳田は正直どうすべきか困り果てていた。
現実には帰るしかないのだが、
帰れば松中部長の嫌味の雨が降る。

" 朝からのモヤモヤの原因はこれか… "

柳田と工藤は仕方なく
名刺の裏に来訪の旨を書き置き
S-グラウンドを後にした。


※この物語はフィクションですが、登場する
人物、団体など一部オマージュのため
使用させて頂いています。

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