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私的朝ドラ考

わたしは40過ぎにとち狂って退職、作家活動など始めてたわけだが、アルバイト的な仕事をこなしなからも、まぁ時間だけは余裕ができた。

いきおい朝もゆっくりできるので、それまで物理的に手が出なかった朝ドラも見ることができるようになった。

ゆえに、わたしの朝ドラ歴は「あまちゃん」以降である。

「あまちゃん」は面白かった。
それまで何も見ていなかったとはいえ、一応知識として知っていた、大根飯の「おしん」とか、古くはニッポンやニッポンの「鳩子の海」、へばちゃんの「雲のじゅうたん」あたりのうっすらしたイメージはことごとく覆された感がある。(それにしても比較対象が驚くほど古い)

「〇〇ロス」という言葉が流布したのもこの作品からだったと思うが、とにかくほぼ初めてきちんと見た朝ドラがかなり面白かったので、以降はわりと真面目に視聴しているわけである。

で、「あまちゃん」以降、今回の「虎と翼」まで23作あるのだが、いきなり結論を書くと、自分のベストは「あまちゃん」「ひよっこ」「おかえりモネ」の3本だ。
そしてさらに結論を重ねるなら、3作とも現代か、少なくとも戦後が舞台で、物語の初めから終わりまでで10年経っていない。
コンパクトにまとまった現代劇なのだ。

どうもわたしは、朝ドラ特有の「一代記」が苦手なようだ。

子役が別人に入れ替わって成長するのも、若い俳優が無理して思春期や晩年を演じるのも、かなり上手にこなす人もいるにせよ、やはり不自然さは否めない。

さらにいえば、長い人生いろいろなことが起こるわけだが、そのエピソード全てに、同じような熱量でついていけないという思いもある。
天野アキは北三陸であまをやった後、秋葉原でアイドルになろうと奮闘する、出来事は大きく言ってこの二つだけである。
谷田部みね子も永浦百音も、それぞれ二つの仕事に関わったのち、ある種の気づきを得て、大団円を迎えている。

それでも十分波乱万丈なのだけれど、例えばそこに子育てとか、嫁舅とか、戦争とか、そういう時に人生がそれてしまうような「ノイズ」があまり入ってこないで、わりとシンプルに主人公が問題を乗り越えていく姿が、わかりやすいと思うのだ。

例えば10年でまとまる物語なら、「主人公がこう成長しました」ですむわけだが、これが50年にわたる話になれば、「主人公は後輩を導く立場になりました」とか「主人公は忘れていた情熱を取り戻しました」みたいなパートを入れていかないとリアリティーがなくなる。

それが必須だと思う方もいるやも知れないし、そこを否定はしないが、それをやるなら、一回15分、半年の尺は短すぎるのではないか?
「おしん」は一年間、土曜日まで放送していたわけで、その頃のフォーマットをそのままやったら、やはり無理があるだろうと思う。

「スカーレット」「おちょやん」「ブギウギ」あたり、わたしは最後の方に近づくにつれ少々つまらなくなったのだが、その辺りが原因だと感じている。
一方「カムカムエヴリバディ」は三代に渡る年代記だが、突き詰めると、1人1テーマが3つ連なっている形式なので、わたしとしては面白く見られた。

さて、最新の「虎と翼」について。
以上のような話の流れから言えば、この物語は戦後寅子がもう一度立ち上がることを選択するあたりまでで、当初のテーマを全うしてしまった。
正直そこまではかなり良くできていたし、そこまでで十分名作だとは思う。
ただ、残りの半分は家庭裁判所と少年審判に焦点を絞って描くべきではなかったのか?
物語が破綻したとは思わないが、家裁こそが主人公の主戦場であったわけだし、そこが強く印象に残らないのは残念でならない。

ネットでは、物語のリベラルな問題提起(一概に否定しないが)が、ちょっとイデオロギー的な対立を煽ってしまったけれど、わたしとしてはそれよりも物語としての「未完成さ」が一番気になった。

ただわたしはこういう冒険的な作品も嫌いではない。
わりとカルト的な人気の「おかえりモネ」をベスト3に入れるのも、そういうことなのかと思う。

ちなみにワーストは「半分青い」(なんか申し訳ないが、書かずにおられなかった)


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